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『Coming Apart : The State of White America, 1960-2010』 Charles Murray(Crown )

Coming Apart : The State of White America, 1960-2010

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「1960年から現在までにアメリカ白人社会に起こったこと:保守派からの声。」


アメリカの保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」の研究員であるチャールズ・マレーの新刊。

 マレーは「ベル・カーブ」という著作(リチャード・ハーンシュタインと共著)で人種によりIQの差があるという論理を展開し全米に議論を巻き起こした。テレビで多くのリベラル派論客たちがマレーの説は馬鹿げていると息巻いた。

 そのマレーの新刊は、1960年から2010年までにアメリカ白人社会に起きた二極化を検証した本となっている。

 マレーはこの間に生まれた「ニュー・アッパークラス」(富裕層のトップ5%を占める25歳以上の成人)は、国民のなかでも最も高いIQと収入を得て、特定の地域に住み、お互いに結婚をし、子供たちをトップクラスの大学に送り込んでいるという。

 マレーは社会の動きをみるために「勤勉さ」「正直」「結婚」「信仰」という分野から「ニュー・アッパークラス」「ニュー・ロワークラス」の比較をしていく。

 例えば「結婚」の項ではこのふたつの違ったクラスに属する30歳から49歳の人口を比べ、アッパークラスの方が結婚をする率が高く、離婚をする率も低く、幸せな結婚をしていると感じている人々が多いことをデータによって示している。

 また、結婚と子育てを結びつけ最も優れた子供を育てるのは、統計的にふたりの産みの親が揃っている家庭で、次に離婚した親たちの家庭としている。結婚せずに子供を生んだ女性の家庭はその順位が最も低くなっている。

 この統計をもとに、結婚外で生まれた子供の60年から2010年の数を調べ、婚外子と母親の教育が大きな関係があることを示している。大学以上の教育を受けた女性が結婚をせずに子供を産む比率は極端に低くなっている。

 マレーはまた、特定のジップコード(郵便番号)にニュー・アッパークラスが集中して住んでいることに注目し、ハーバード大学やエール大学などのエリート大学の卒業生の多くがこのジップコードからの学生であることを示している。

 ニュー・アッパークラスはこのジップコード内で暮すことにより、外部との接触が限られ、自分たちの世界だけに留まっているとしている。

 最も頭の良い人々が最も良い教育を受け、最もよい仕事に就き、お互いに結婚をし、さらに頭の良い子供を作り出す。一方で、ロワークラスの人々は学校を中退し、低賃金の仕事に就き、彼ら/彼女らの子供はシングル・ピアレントの家庭で育つ確立が高く、子供たちIQも上がることがないとしている。

 このような統計を見せて彼は何を訴えたかったのだろうか。

 そうれは社会にはもっと保守的になるべきだということだろう。

 結婚にしてもレベラルな考えの持ち主は、ゲイ同士の結婚や他の形の結婚があってもよいと考える。しかし、結果的に最もよいのは伝統的な結婚で、それ以外の形の結婚を認めるのはよい社会を作り出さないと彼はこの本の統計を通して言っている。

 この50年間、白人社会では労働者階級と接触がなくなった富裕層が増え、彼らが自分たちの「現実」だけのなかで暮す一方、低所得層も増え続けている。

 著者はこの現状を伝え、今のアメリカに必要なものは、伝統的な結婚、伝統的な勤勉さ、信仰の重要性を伝える保守的なムーブメントだと主張し、 白人富裕層は培った自分たちのモラルを主張するのに躊躇すべきではないと語っている。


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