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『 A Natural Woman』Carole King(Grand Central)

 A Natural Woman

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キャロル・キングの心温まる自伝」

 
 ポップ歌手キャロル・キングが生まれたのは1942年2月。2012年の今年彼女は70歳だ。

 60年代、70年代に青春を過ごした人のなかには、キャロル・キングのアルバム「つづれおり」から聞こえてくるメロディと彼女の声に自分の夢が詰まっていると感じた者も多いだろう。キャロル・キングの歌声には「優しさ、率直さ」があった。

 70歳になるまで自伝をださなかったのが不思議なくらい、キャロル・キングはポップ界に大きな影響を与えた女性だ。

 彼女は小さい頃から才能に恵まれていたようで、2年飛び級をしている。高校の時には仲間とバンドを作り、作詞、作曲、アレンジを担当した。バンド名は「コサインズ」。数学嫌いの僕としては頭が痛くなるような名前だ。

そして、15歳の時に飛び込みでABC-パラマウントに行き、レコーディング契約を結んだ。彼女はそれが「ただそうなった」というふうに書いているが、そんなことはないだろう。この本全編を通じて、キングは自分の音楽界の成功は「ただそういうことが起こった」という調子で書いている。

 16歳で大学に入ったキングは18歳で長女を出産。同じ18歳で大ヒット曲となった「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー」、20歳の時にはリトル・エヴァが歌い全米第1位となった「ロコモーション」を書いている。

そしてタイトルとなっている「ナチュラル・ウーマン」はアトランティック・レコードから頼まれて、アレサ・フランクリンのために夫のゲリーと書いた曲だ。ふたりはこの曲を一晩で書いている。その後、アイドル・グループ、ザ・モンキーズに多くの曲を書くのだが、彼女がずっと避けていたのは自身がスターになることだった。

 しかし、ジェームス・テーラーたちと出会い、自分自身で歌い出し「つづれおり」で4つのグラミー賞を獲得する。この授賞式に彼女は出席していない。その理由は「会場がニューヨークで自分の家族と一緒にカリフォルニアに居たかったから」というだけ。グラミー賞獲得に関してはこの記述だけで終わっている。

この本のもうひとつの大きなテーマは彼女が関わった男たちのことだ。彼女は4回結婚をしていて、本のなかで3番目の夫から暴力を受けていたことを告白している。

 そして、暴力を受けながらもその男のそばを離れなかった自分を語っている。

優しく、素直で、率直で、強くもあり、弱くもある。この本で読者は「つづれおり」の歌声のようなキャロル・キングに再び会うことができる。

 


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