『Reporting Vietnam : American Journalism』Library of America(Library of America)
「 ジャーナリストたちが見たベトナム戦争」
アメリカのジャーナリズムを語るのに欠かせないものがある。それはベトナム戦争。60年代から70年代という時代もあったが、戦地に赴いたリポーターたちはそれまでの「アメリカがおこなう戦争は常に正しいものだ」という考え方から離れ、戦争やアメリカ政府を懐疑的に見ていた。
戦地に赴いたジャーナリストは、デイヴィッド・ハルバースタム、スタンリー・カーノウ、ニール.シーハン、ピーター・アーネット、マイケル・キンズレイそれにホーマー・ビガート(ビガードは少し上の世代だが)などエルビス・プレスリー、ビートルズを聞いた世代。叩き上げというよりハーバード大学などの名門大学を卒業し、ストリートの「スマート」さからのジャーナリズムではなくアメリカ社会、政府、そしてこの戦争をどうみるかの見識を交えてリポーティングをおこなった。
彼らの書いた記事はニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、タイム誌、ライフ誌、ニューヨーカー誌などに掲載され、それがアメリカ社会の「声」となっていった。
これらの記事を一同に集めたのが『Reporting Vietnam: American Journalism』。2巻に編集され、第1巻がアメリカがベトナムで最初の戦死者を出した1957年から69年。第2巻が69年からサイゴン陥落、アメリカ大使館撤退の75年となっている。第1巻と第2巻を合わせると1600ページにもなる。
内容は一本の記事が長く、書き手の真剣さがうかがえる。例えば、68年3月に起こったアメリカ兵による「ソンミ村虐殺事件」のレポートがある。
虐殺をおこなった兵士にインタビューをし、その残虐な殺し方や、殺した村人のほとんどが女性、子供、老人だったことを伝えている。記事は、何故その兵士が虐殺に加わったのか、そのときどのように感じたかなどの兵士の心理面にも及んでいる。
そのほか、67年から73年まで、捕虜となった兵士の体験談、カンボジアの首都であったプノンペンが反政府軍に占領された日の記録。またアメリカ国内からは学生と州兵との争いで、州兵側の発砲により4人の死者を出したケント・ステート大学でのデモの模様など、どれも読みごたえのある記事ばかりだ。ノーマン・メイラーのペンタゴン(米国国防総省本部庁舎)への向けてのデモのリポートも含まれている。
記事の質の高さと、その取材の緻密さ、それにそれらの記事を掲載したアメリカの新聞や雑誌のことを考え合わせると、ジャーナリズムに関わる人々の熱い思いが伝わってくる。
この本にはベトナム戦争を時系列で追った年表、戦争が行われた場所の地図、ジャーナリストたちのプロフィール、軍事用語の解説なども含まれている。
60年代、70年代を生きた人々(特に若者)に大きな影響を与えたベトナム戦争。そして戦地、あるいはアメリカ国内で何が起こっているかを伝えたジャーナリストたち。一読をお勧めします。