書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『チャリティとイギリス近代』金澤周作(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「チャリティは、福祉国家の「諸起源」の一つであるのみか、その構成要素として生き続けている」。「二〇世紀後半以降にグローバルな規模で、ときに国境や国家主権を乗り越えて展開する国際人道支援の動きも、イギリスにとってみればこ…

『電子書籍の衝撃』 佐々木俊尚 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)

→紀伊國屋書店で購入 佐々木俊尚氏の本なので期待したが、最初の200ページはかったるい。楽曲のオンライン配信で激変した音楽業界をモデルに電子書籍後の出版業界の行く末を考えようという趣旨だが、手持ちの材料とオンライン情報で書いたのか、文章にリアリ…

『トマス・ペイン―国際派革命知識人の生涯』フィルプ,マーク(未来社)

→紀伊國屋書店で購入 「アジテーター、ペイン」 トマス・ペインはアジテーターとしては一流の人物だが、政治思想はあまり高く評価されていない。日本だけでなく、アメリカ本国でもそうらしい。本書は、ペインの疾風怒濤のような生涯についてはそれほど詳しく…

『iPad vs. キンドル』 西田宗千佳 (エンターブレイン)

→紀伊國屋書店で購入 iPad騒動をきっかけに日本でも電子書籍が改めて注目されるようになり、関連本が雨後の筍のように出版されている。 電子書籍には大蔵経や四庫全書のような人類の遺産をデジタル時代にどう継承するかとか、紙の本から疎外されていたさまざ…

『辻』古井由吉(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「イタコ健在」 本書の表題は、小さく胸を打つ。口にもしなければ耳にもしなくなって久しい言葉が、懐かしさと戸惑いを生む。これが「交差点」では興醒めで、そうなると途端に、車やら煌々とした信号機やら、挙句にはアスファルトに引か…

『フロイトのイタリア―旅・芸術・精神分析』岡田 温司(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「イタリアン・コンプレックス」 フロイトはイタリアに憧れていた。ゲーテと同じように、そしてイタリアを訪問するまでには長い時間がかかったのだった。一八九五年になってやっと弟のアクレサンダーとともにヴェネティアを訪問する。そ…

『中世の覚醒――アリストテレス再発見から知の革命へ』R.E.ルーベンスタイン著/小沢千重子訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「12世紀ルネサンスに始まる思想史エンターテインメント」 池内 恵(イスラーム政治思想史・中東地域研究 ・国際日本文化研究センター准教授) 歴史好きは多い。歴史ものの本もよく売れる。戦国武将や幕末維新の志士たちの物語は幾度と…

『芝居半分、病気半分』山登敬之(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「クリニックシアターの誘惑――演劇と私と、時々、ヤマダ」 山登敬之(精神科医) 一昨年ノーベル文学賞を受賞した英国の劇作家、ハロルド・ピンターは、一九五九年に「レヴューのためのスケッチ」を十数編書いている。それぞれが、上演…

『アリストテレスの現象学的解釈―『存在と時間』への道』ハイデガー,マルティン(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「初期ハイデガーの注目論文「ナトルプ報告」」 ハイデガーが教授職に就職するために、書きかけの著作の一部をタイプうちして、提出した論文で、ナトルプ報告として有名である。『存在と時間』の前段階のハイデガーの思考を示したものと…

『眠れない一族――食人の痕跡と殺人タンパクの謎』ダニエル.T.マックス著/柴田裕之訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「まだしゃべり足りません――プリオンの黒い秘密」 [二〇〇八年]二月三日放送のNHK「週刊ブックレビュー」出演の際に一押しで紹介した『眠れない一族』はプリオン病について書かれたすばらしいノンフィクションです。いろいろあって…

『アリスの不思議なお店』フレデリック・クレマン著/鈴村和成訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「あの子だけのために物語ること。」 千野帽子(俳人・エッセイスト) フレデリック・クレマン『アリスの不思議なお店』(鈴村和成訳)を読みました。 いわゆる「絵本」というより、もっと緩い。絵・コラージュ・オブジェ写真のかずかず…

『『チャタレー夫人の恋人』と身体知 ― 精読から生の動きの学びへ』武藤浩史(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「萎えの詩学」 大学院の演習でシェイクスピアの『ソネット集』を読んでいるのだが、中には扱いづらいものがある。たとえば135番。たった14行の中で「ペニス」を表す語が13回も出てくる。こういうの、どうやって語ったらいいんで…

『生きる意味 ― 「システム」「責任」「生命」への批判』イヴァン・イリッチ(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ラジカルな思考の秘密」 ずっとインタビューを断っていたイリッチが引き受けた連続インタビューを原稿に起こした書物で、イリッチの著作の背景にある事情がよく分かる。たとえば脱学校という概念でイリッチが要求したのは、学校を廃止…