『タイの開発・環境・災害-繋がりから読み解く防災社会』中須正(風響社)
「災害を天から降ってくる天災とせず、人災の部分に絞り込むことによって、抑止・コントロールし得る可能性を探る」という著者、中須正の立場に、まず賛同し拍手を送りたい。たしかに人間は無力で、神に祈るしかないときがある。しかし、あきらめからはなにも生まれない。できることを探し、英知を結集して、神の領域を減らすことによって、神との健全な関係が生まれる。
著者が本書で明らかにしたことは、きわめて明確に「おわりに」で、つぎのようにまとめられている。「本書は、①タイの開発・環境・災害はそれぞれどのように繋がっているか、②タイの開発・環境・災害と社会は、どのように繋がっているのか、そして、③それらが、どう日本と繋がっているのか、を明らかにしてきた。具体的には、タイの開発・環境・災害の歴史を俯瞰し、そこからタイ社会との関係を見てきた。特にタイにおいて開発が本格的に始まった一九六〇年代から代表的な事例をいくつか取り上げながら、災害とは作り出されるもの、その社会を反映するものということを示した。さらに日本と比較し、その繋がりを考察した」。
そして、著者は、「開発・環境・災害すべては繋がっている。そして人と人、国と国も必ず繋がっている。その意識から問題解決が始まる」、「言いたかったのはこの点につきるのである」と結んでいる。その前には、つぎのような文章がある。「開発が環境を改変し、災害へと繋がるプロセスは、まさしく天に唾を吐く行為と同じようにもみえる。これは世界共通で考えなければならない問題であろう。災害に弱いアジア、そして災害に弱いタイ。日本の公害輸出が以前騒がれたが、公害経験、災害経験の輸出こそが日本がまず取り組む優先課題ではないか」。
本書のキーワードは、なんといっても「繋がる」だ。繋がることによってこれまでみえなかった問題が明らかになり、繋がることによって解決の糸口がみえてくる。そして、人と人、社会と社会、国と国が繋がることによって、具体的に解決へと向かっていく。だが、「繋がる」ことは、そう簡単なことではない。広い視野と展望が必要だし、心と時間の余裕がなければ「繋がる」きっかけは生まれない。著者がこのように考えることができるようになったのも、学部時代に理系で、4年間の会社員生活を経て、国際環境教育協力を学び、さらに環境社会学を専攻するようになった履歴と、ストレスから自分らしさを取り戻すことができたタイでのゆっくりとした生活と著者を支えた人びととの繋がりがあったからだろう。著者だけにしかできない発想と繋がりを、どう発展させるか、今後の課題となる。
「開発→環境破壊→災害(公害)というサイクルに潜む人災」の「負の連鎖」を断ち切るためには、本書のような研究がますます発展し、人や社会や国を動かす原動力になっていかなければならない。「負の連鎖」をつくった力はあまりに巨大で、ひとりやふたりの研究だけではどうしようもないだろう。研究の「繋がり」が、この「負の連鎖」を断ち切る大きな武器になる。