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『コロノス芸術叢書 アートポリティクス』コロノス芸術叢書編集委員会(論創社)

コロノス芸術叢書 アートポリティクス

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「われわれの世界はいまもまた危機的な状態にある。そうしたなかで芸術家も批評家も研究者もその大多数は現実を見つめることから撤退し、現実を解明しようとする活動を忌避している。彼ら・彼女たちが現実になんら応答することのない作品や批評を量産するようになってから久しい。そうした停滞状況は、2001年の9・11によって、一時、振り動かされたかに見えたが、ふたたび芸術の世界は非反省的な蒙昧と停滞の時代に入りこんでしまった。しかし、芸術とは現実への応答ではなかったか。たとえそれが芸術活動という領野に留まりつづけるとしても。そして、現実と切り結ぶことのない芸術活動はありえないのではないのか。」(コロノス芸術叢書刊行によせて)
 
『コロノス芸術叢書 アートポリティクス』は、様々なジャンルの芸術家、批評家、研究者からなる編集委員会によって刊行された芸術叢書である。日本において、広義の意味で芸術に関わるとき、そのほとんどにおいて、美学的、芸術至上主義的な振る舞いを強いられる。政治的、社会的な表現や分析は排除され、現在の世界システムを所与とする限りにおいては、それを批判、批評することが許される。よって、芸術の価値は、売れるか売れないか、より高く売れる商品か否かに収斂するされることとなる。端的には、高度資本主義による芸術の回収と言うこともできるが、日本国内においては、商業主義とほとんど関わりがないと思われる作家、批評家においてすら、それが浸透しているため、事態はより複雑かつ深刻である。そうした日本的状況を、あるいは世界的状況を分析、批判し、芸術がギリシャの起源において、本来持っていた歴史的役割を取り戻すべく刊行されたのが本書である。
 


 

美術、演劇、パフォーマンス、路上表現から都市、空間論にまで至る国内外の諸論考、インタビューは、これまでの芸術、美術、演劇誌、あるいは論集では、なかなか読むことのできない内容である。また異なった表現、分野であっても、相互が横断的に連関し合い、それぞれが「アートポリティクス」というタイトルに掛けられた方向へと進められていく。これはまさに一つの分野にとどまらない編集委員会による集団的作業の産物であろう。
 


 

しかし、内容はもちろんだが、何より重要なのは、「コロノス芸術叢書」という運動によって、現在、芸術と呼称されている領域の外部に自らの自律的空間を創りだし、困難な状況のなかであっても、であるからこそ、真の「芸術」的理論と実践へと向かおうとする試みそれ自体だと言えよう。多くの芸術関係者が、こうした試みに呼応することを願うとともに、次巻の刊行も期待したい。 


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