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『ジャ・ジャンクー 「映画」「時代」「中国」を語る』ジャ・ジャンクー著、丸川哲史、佐藤賢訳 (以文社)

ジャ・ジャンクー 「映画」「時代」「中国」を語る

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 『ジャ・ジャンクー 「映画」「時代」「中国」を語る』は、2009年に中国で刊行された同タイトルの全訳である。1996年に『小山の帰郷』でデビューしたジャ・ジャンクーは、『一瞬の夢』(98)で世界、そして日本でも広く知られていることとなった映画監督であるが、デビューから最新作までの演出ノート、テクスト、インタビュー、対談などが収められている。現在は、もっとも注目される中国の、世界の作家の一人として、すべての作品が広く知られているが、ホウ・シャオシェンツァイ・ミンリャンとの対談を含め、その発言を日本語でまとめて読むことが可能になったことを率直に喜びたい。

 80年代半ばからチェン・カイコーチャン・イーモウら中国第五世代が注目され、それに次ぐ第六世代の作家への関心も高いものであったが、そのなかでもジャ・ジャンクーの果たした役割は極めて大きなものであった。中国は、1989年の天安事件を経て、1993年から始まる社会主義市場経済によって、さまざまな矛盾を生み出していた。ジャ・ジャンクーは、『一瞬の夢』、『プラットフォーム』(00)、『イン・パブリック』(01)、『青の稲妻』(02)の重層的な風景によって、それらを見事にフィルム、あるいはビデオへと定着させ、資本主義下のネオリベラル政策とパラレルに進めれていく中国の「改革」の実体を広く知らしめることとなった。そして、フランスのヌーヴェルヴァーグブニュエルファスビンダーを引き合いに、体制化した第五世代を批判しながら、自らの作品を「アマチュア映画」と規定していった。



「だからわたしは言うのだ。アマチュア映画の時代が再びやって来る、と。これは真に映画を熱愛する者が持っている抑えきれない映画への欲望だ。かれらはより深遠な映画のかたちに眼を開き、業界に既存の評価方法を自然に超えていく。(中略)またかれらは古い尺度の外に身を置くことにより何の束縛も受けない。かれらは知識人としての良心を堅持することによって慎み深くいられるのだ。」(「アマチュア映画の時代が再びやって来る」)



 そして、『世界』(04)、『長江哀歌』(06)、『東』(06)、『四川のうた』(08)といった傑作、問題作を続けていくのだが、本書を読み進めるなかで、国際的な作家となった自らを取り巻く環境や中国国内の劇的な変化のなかで、ジャ・ジャンクーが映画を通じて何を思考し、何を提起しようとしたか、詳細に理解することができよう。同時に、映画の書として、映画理論、映画史的考察のみならず、ここから中国の政治、社会状況、あるいは思想の現在についても伺い知ることができるだろう。

 

 

 

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