『ひと目で納得! 音楽用語事典』関孝弘 ラーゴ・マリアンジェラ(全音楽譜出版社)
音楽書籍の中では常に売れ筋上位にランキングされている『これで納得!よくわかる音楽用語のはなし』(2006年9月の書評で紹介)の姉妹版が登場した。「これで納得!」が「ひと目で納得!」になったところからも想像できるように、新著では見開き2ページで大切な音楽用語をチェックできるように工夫されている。左側にはキムラみのるによるかわいいイラストがページいっぱいに配置され、楽しい絵本のような装丁だ。右ページには用語解説とはひと味違った、軽妙なエピソードを交えた「お話」が掲載されており、これを読んであげればイラストとの相乗効果で、小さな子供でも言葉のイメージを楽しめるに違いない。項目はぜんぶで73。複数の用語がセットになっている項目もあるので、実際に触れることができる単語の数はもう少し多い。アルファベット順に並べられ、ページ端には辞書でおなじみのインデックスもつけられているので、捜したい単語もすぐに見つかる。いずれにせよ、ふだんのレッスンで使われる用語はほぼカバーされているといって良いだろう。
日本人には、こと外国語となると「きちんと対訳しないとなかなか頭に入らない」という傾向がある。フィーリングで記憶するのが苦手で、それぞれの単語に対応する概念が具体的でないと気分がすっきり落ちつかないのだ。それはそれで必ずしも悪いことではないのだが、いつまでたっても外国語が苦手な人が多いのは、そのためだろう。
外国語にはそのまま日本語に一発変換できない概念がたくさんある。たとえば英語のtakeもそのひとつだ。日常会話でしょっちゅう使われる単語だが、さまざまなニュアンスに変化する。“Take care!”と声をかけられると“Thanks!”という言葉が出てくる前に「careをtakeするとはどういうことか」と一瞬考えてしまうからだめなのだ。基礎単語の使い回しが悲しいほどへたなのが一般の日本人。度胸さえあれば中学1年生の英語の教科書に出てくる語彙だけでも実にたくさんのことを表現できるのに、もったいない。
音楽はまさに「フィーリング命」の世界だ。四拍子と三拍子の違いを理解しているからピアノが上手なのではない。そこにビートを感じられるか、ワルツのリズムで心がウキウキしてくるか、というところが原点なのだ。そのフィーリングをさらにきめこまかく伝えてくれるのが、作曲家が書いたさまざまな指示だ。これらの楽語の「訳語を知っている」のではなく「ニュアンスを感じられる」ことが魅力的な演奏への入口だ。「フォルテだから大きく」「スタッカートだから短く」で満足してしまうのではなく「どんなフォルテ?」「どんなスタッカート?」という疑問が自動的に思い浮かぶ思考回路を開発しよう。大きいだけ、短いだけなら猿でもできる。その先の一歩を踏み込むことによって、音楽の世界がとつぜんフルカラーで感じられるようになるはずだ。そこへの具体的アプローチが本書のページ右下の「演奏アドバイス」でもある。こういうアドバイスがごく当たり前に感じられるようになった時には、音楽を自分の言葉として自由自在にあやつれているに違いない。
音楽用語の基本はイタリア語。イタリアンレストランの食べ物を思い浮かべてみよう。あの彩り、あの味付け。どんな調味料を使ってどう料理するとこんなにおいしくなるかが知りたくなる。単に「塩と油を入れます」だけであの絶妙な風味は生まれない。ポイントは「いつ、何を、どのぐらい?」なのだ。音楽の風味がわかるようになるための用語事典。音楽の勉強中ならぜひ手許に置いておきたい一冊である。
日本人には、こと外国語となると「きちんと対訳しないとなかなか頭に入らない」という傾向がある。フィーリングで記憶するのが苦手で、それぞれの単語に対応する概念が具体的でないと気分がすっきり落ちつかないのだ。それはそれで必ずしも悪いことではないのだが、いつまでたっても外国語が苦手な人が多いのは、そのためだろう。
外国語にはそのまま日本語に一発変換できない概念がたくさんある。たとえば英語のtakeもそのひとつだ。日常会話でしょっちゅう使われる単語だが、さまざまなニュアンスに変化する。“Take care!”と声をかけられると“Thanks!”という言葉が出てくる前に「careをtakeするとはどういうことか」と一瞬考えてしまうからだめなのだ。基礎単語の使い回しが悲しいほどへたなのが一般の日本人。度胸さえあれば中学1年生の英語の教科書に出てくる語彙だけでも実にたくさんのことを表現できるのに、もったいない。
音楽はまさに「フィーリング命」の世界だ。四拍子と三拍子の違いを理解しているからピアノが上手なのではない。そこにビートを感じられるか、ワルツのリズムで心がウキウキしてくるか、というところが原点なのだ。そのフィーリングをさらにきめこまかく伝えてくれるのが、作曲家が書いたさまざまな指示だ。これらの楽語の「訳語を知っている」のではなく「ニュアンスを感じられる」ことが魅力的な演奏への入口だ。「フォルテだから大きく」「スタッカートだから短く」で満足してしまうのではなく「どんなフォルテ?」「どんなスタッカート?」という疑問が自動的に思い浮かぶ思考回路を開発しよう。大きいだけ、短いだけなら猿でもできる。その先の一歩を踏み込むことによって、音楽の世界がとつぜんフルカラーで感じられるようになるはずだ。そこへの具体的アプローチが本書のページ右下の「演奏アドバイス」でもある。こういうアドバイスがごく当たり前に感じられるようになった時には、音楽を自分の言葉として自由自在にあやつれているに違いない。
音楽用語の基本はイタリア語。イタリアンレストランの食べ物を思い浮かべてみよう。あの彩り、あの味付け。どんな調味料を使ってどう料理するとこんなにおいしくなるかが知りたくなる。単に「塩と油を入れます」だけであの絶妙な風味は生まれない。ポイントは「いつ、何を、どのぐらい?」なのだ。音楽の風味がわかるようになるための用語事典。音楽の勉強中ならぜひ手許に置いておきたい一冊である。