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『繻子の靴』 クローデル (岩波文庫)

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 ポール・クローデルの『繻子の靴』の新訳が岩波文庫から出た。訳者はクローデル研究の第一人者渡辺守章で、本文と同じくらいの分量の注と解説が付されている。

 とかなり興奮して書いているのだが、ポール・クローデルの名前を知る人は今ではあまり多くないかもしれない。知っていたとしても映画になったカミーユ・クローデルの弟、あるいは日本にフランス大使として駐箚したことのある詩人外交官としてだろうか。

 二十年ほど前までは『繻子の靴』をふくむ代表作の多くが日本語で読めたし、渡辺による浩瀚な評伝も書店に並んでいたが、現時点で入手可能な本は駐日大使時代の外交書簡をまとめた『孤独な帝国 日本の1920年代』くらいしかない。

 なじみのない読者のためにあらためて紹介すると、ポール・クローデルは1868年生まれの詩人・劇作家で、長姉にロダンの女弟子となり悲劇的な最期をむかえたカミーユがいる。青年時代マラルメの薫陶をうけるが、20代でカトリックの回心を経験し、キャリア外交官としてアメリカ、チェコ、ブラジル、中国、日本などで勤務するかたわら、詩劇を書きつづけ、20世紀の反リアリズム演劇を開拓した。日本の感覚ではぴんと来ないが、現在フランスでもっとも多く上演される20世紀の劇作家はジュネとクローデルだという。

 『繻子の靴』全曲版は副題に「四日間のスペイン芝居」とあるように四部にわかれており、完全上演すると10時間近くかかる。クローデル自身が「集大成的な作品」と自負するだけに、16世紀の大航海時代を背景にスペイン、モロッコ、メキシコ、パナマ、フィリピン、日本、地中海と舞台は地球規模に広がり、物語の時間は20年以上におよぶ。

 長大なためになかなか上演されなかったが、発表後19年たってジャン・ルイ・バロー(『→『繻子の靴』上を購入

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