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『マンガを読んで小説家になろう!』大内明日香・若桜木虔(アスペクト)

マンガを読んで小説家になろう!

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「小説を書き続ければ、小説家になれるんです」

 小説を書きもしないのに、「小説作法」や「小説の書き方」を論じた本をつい読んでしまう。

そんな癖をもっている人にとって、本書は見のがすことができない本である。「また、同じような本が出ているのか。じゃあ、読んでみるかな」というノリで買ってほしい。小説を書きもしないのに、小説の書き方が気になる人は、そういう斜に構えた感じが似合う、と思うのである。

 ストーリーを作るとき、マンガを参考にするとよい、ということは、自らマンガ原作もする評論家の大塚英志氏が「物語の体操」とか「キャラクター小説の作り方」という一連の著作でしつこいほど解説してきた。(わたしがこの春まで非常勤講師をしていた日本ジャーナリスト専門学校に大塚氏が特別講義をしにきたときは、学生といっしょに講義を聴いたこともある)。

 面白い小説にはパターンがある。そのノウハウを身につければ、面白い小説を書くことができるはずである。

 出版評論家の大内明日香と、現役の小説家、若桜木虔が、小説業界の内幕を身も蓋もない軽妙な文章で、スパスパ書いている。読んでいて気持ちがよい。

 この本が買うに値する点は、まず第一に小説を取り巻く経済状況を正直に書いていること。印税の相場は10%だったが、8%とか6%の出版社があるということ、なかには1%印税もあるとまで書いている。

 わたしが小説を書くことに興味をもったとき、芥川賞作家の丸山健二が、原稿料の安さをエッセイのなかで嘆いていたのを読んで、「そんなに安いはずがない。きっと何か裏があるはずだ」と思ったのだが、出版業界の末席にいてわかったことは、本当に小説は売れていない、という事実であった。(出版業界ってギャラの話を口にしないという商習慣があるので、本当に小説は売れていないんだ!と納得するまでに時間がかかるんですよ)

 「そんなに割にあわないことのために、多大な時間を費やすのはバカらしい」そう思った人は、小説家にはなれないし、ならないほうがいい。

 それでも、この2人は読者に小説家になることを勧めている。二人とも小説を愛しているからである。

 一定のルールに従って、学習とトレーニングをすれば、売れる小説が書けるようになると徹頭徹尾励ましているのだ。しかもご丁寧に小説家を育てられないアホ編集者のタイプまでしっかり書いてあるので、そのかゆいところに手が届く姿勢には敬服する。

 この本の最後にはシンプルなことが書かれてある。

「大丈夫です。

 小説を書き続ければ、小説家になれるんです」

 あぁ、いまからでも遅くはない。小説を書こう! 

 と思わせるパワーのある本である。


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