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『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』磯崎哲也(日本実業出版社)

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

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「気合いのはいった失業者に一番必要な書籍」

 本書を読んで、起業するときに必要な知識・常識がやっと分かった!!
 著者の磯崎哲也氏は、公認会計士であり、日本のベンチャー起業家を財政面で支えてきたプロ。ビジネスやファンナンスを中心とするブログ、有料メルマガ、ツイッターなどでの発言で注目されている人物である。

 このサイトを見ているような人であれば、磯崎さんの名前をどこかで見かけたことがあるはずだ。

 私は、ベンチャーを立ち上げて革新的なサービスをゼロからスタートして軌道にのせる、利益をだして社会貢献するという人を心から尊敬している。しかし、ベンチャー企業の経営者は、個人的な才覚で仕事をなしとげる、職人やフリーランスの人達と比べると、その成功への道のりが複雑すぎて理解することができない面が多々あった。

 どういう風に資金調達をしたのか。いかにして優秀な人材をリクルートしたのか。困難を打破するスキルはどうやって体得できたのか。経営雑誌を読むと、投資は事業計画ではなく人柄で決まる、なんて書いてあったりすると、精神主義ではないか、と眉をひそめてしまう。

 私は会計や経営について実務経験があるわけではないので、経営の真実については分からないままではないか。書籍で学ぶことはできないのだろうか、と嘆息していた。

 本書を読んで、上記の欲求不満の多くが解消された。

 私はこのサイトで取り上げる書籍は、再読の価値ある書籍であることと決めている。初読は、浜松から豊橋に転職・移住すると決めたとき。再読したのは、その豊橋で失業したときである。内容が脳に流れ込んできたのは失業している、今このときである。危機になると脳がよく動くのである。

 失業者があふれている今こそ、多くの人に読んでほしい。とくに、もはや起業しかない、と気合いを入れるしかない中高年の失業者に読んでほしいと思う。

 本書の目的は「起業のイメージをもってもらうこと」。起業のノウハウはその業種によって異なるものの、ベンチャー起業の財務(ファイナンス)には共通点が多い、とその分野の実務家である磯崎は筆を起こしている。

 細かいことは抜きにして、おもしろい書籍に仕上がっている。日本にはイケてる起業家が極めてすくない。そういう起業家が少ないので、出資する投資家も現れなかった、という認識である。アメリカにはベンチャー起業を促す風土がある、ということを言い、嘆くよりも、日本の中で、このサービスで社会を変えてやろうじゃないか、というイケてる人に自分がなれよ、ということである。投資の制度において日本社会が欠落だらけということはない。もっとも足りないのはアニマルスピリットをもった起業家なのだ。

 もちろん起業には向き不向きがあるし、起業したら(経営者になったら)幸福になるか分からない。未来の不確定性についても、個人の幸福の不確実性についても本書はしっかり説明をしている。

 巻末の文章も実践的である。

 「次のステップとしてお願いしたいのは、一緒に起業するいい仲間や専門家に出会い、実際に起業してみることです」

 納得の落としどころです。

 シンプルなんだけど、この一文に説得力があるだけの構成になっている。ファイナンスのルールを縷々述べることで、リスクをコントロールする仕組みが日本社会にはある、ということが学べるからである。

 本書を読んで起業する人が増えて欲しい、と思う。

 私事ですが、この3週間ほど、ハローワークに通って求人票を見ては面接試験を受けてきた。友人知人たちに向かって「なんかいい仕事ない?」と情報発信して、被災者で仕事をしないか? 45歳になったら人がやりたがらない仕事しかないぞ、という助言を受けてきました。ジタバタして得た結論は、自分でリスクを取ってやるしかない、ということ。どんな仕事にも不確実性がある。自己責任でやるしかない? いまさら何を言うのか、と自分自身につっこみをつれてしまうことになりますが・・・。これからばりばり仕事をします。本書の再読によって「失業マインドから卒業」ができました。磯崎さんに感謝であります。

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