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『災害ボランティアの心構え』村井雅清(ソフトバンク新書)

災害ボランティアの心構え

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「ボランティアの背中を押してくれる良書」


 いい新書だと思った。

 新書ブームの昨今、新しい事象に関する手短な分析を手軽に読むことの恩恵をこうむってきたのも確かだが、安直な著作の多さにうんざりしかけてもいた。

 だが本書は、まさに新書にふさわしい内容だと思う。

 あえて述べるならば、3・11の大震災の直後に本書を読みたかった。そうすれば、もっと多くのボランティアが被災地の手助けをすることができたのではないかと思う。

 だが、もちろんそれは100%不可能である。というのも、本書は2011年6月25日に初版が刊行されたばかりであり、むしろ3・11以降の災害ボランティア活動の実態を克明に記録しつつ、そこから得た知見に基づいて、これからのボランティア活動に求められることを提言している著作だからだ(著者の村井雅清氏は、被災地NGO協働センターの代表を務めておられる)。

 最も心に残った提言は「ボランティアは押しかけていい」(P54)というものだ。

 震災発生当初、あまりの被害規模の大きさに、被災地以外の人々が一体何からどう助けたらいいのかと呆然としていたのは事実である。そのうちやがて、「ボランティアが殺到するとかえって現地の食糧不足を招いたり迷惑になる」といったまことしやかな情報が流布し始めていった。そして、「支援金を送ったほうがいい」「いや、食料品などの現物のほうがいい」といったように、支援の仕方をめぐっても混乱が続いていった。

 だが著者がいうには、「ボランティアは押しかけていい」のだという。むろん、上記した様な問題点が多少は生じるのかもしれないが、それよりも「行き控え」のような現象が起こって、慢性的に人手不足になってしまうことのほうが恐ろしいという。

 あるいはこれと関連して、社会学的に言うならば、ボランティアをめぐる「意図せざる結果」のような現象が起こっているという記述も興味深かった。

 すなわち、阪神・淡路大震災の経験が元となって、震災時にはボランティアを有効活用すべきだという認識は広まりつつある。だが、そうしたボランティアをめぐる一定の「成熟」した状況が、むしろボランティア活動のマニュアル化であったり、あるいは「指揮をするコーディネーターがいないのならば、かえって混乱するだけだから行かないほうがよい」といった思考を招いてしまっているのだという。

 それに対して著者は、「ボランティアは何でもありや!」だとして、以下のように述べている。

 「非常時に行政がやることのすき間を埋めるのがボランティアだから、ボランティアは「十人十色」「多種多彩」であるべきで、自発性・独立性・創造性を併せもつ存在でなくてはならない」(P27)

 つまりボランティアとは、マニュアル化された行動を、誰かに統括されてやるようなものでは決してなく、むしろ現場の状況に応じて臨機応変に、その場その場での支援をしていくものなのだろう。だから、「これが絶対の正解だ」といえるようなものは存在せず、常にトライアンドエラー方式の試行錯誤をやっていくしかないものなのだろう。

 それゆえ本書には、成功談ばかりではなく、失敗談も合わせて織り交ぜられており、だからこそ今後の支援活動を考えていく上で非常に学ぶところが多くなっている。

 震災以降、(当然のことながらボランティア活動をしながらと思われるが、)これだけの短期間で重要な著作をまとめられたことに敬意を表しつつ、このコンパクトな書籍を、通勤・通学の電車内であれ、家の中であれ、それこそボランティアに向かう途中でもいいので、できるだけ多くの人に読んでほしいと願わずにいられない。

 私自身も、遅ればせながら今夏には被災地を訪れる予定である。


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