『まいにち植物』藤田雅矢(WAVE出版)
「いのちをつなぐ当番日記」
タネからまいたアサガオが、枯れてしまった。双葉が元気に開いたあとに生長が止まって、蔓を伸ばすことなく。いよいよだめだとあきらめた朝はつらかったが、久しぶりに鉢を選んで買うのも楽しかった。タネからまいて育てるようになったのは、藤田雅矢さんの『捨てるな、うまいタネ』(WAVE出版)を読んでからだ。キウイフルーツ、ミカンにカボチャ、イチゴにアボガド、さまざまな食べ物のタネを取り出して保存する方法やまき方も記されていて、しばらくは食後に生ゴミを捨てようとする手をいちいちとめて、タネを選り分けながめたものだ。植物育種家、藤田さんの毎日はまさに植物づくしで、そのようすは自身のブログ「ふじたまの日々」に、色あでやかな写真とともに公開されている。『まいにち植物』は、ここ一年のその記録を中心にまとめられている。
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今わたしの気分はアサガオなので、まずは「盛夏」の「アサガオ初花」のページを開いてみる。藤田さんの庭では、二ヶ月前にまいた300粒のタネのなかから「紫の桔梗咲きと花びらが切れる立田咲きをかけあわせた株」がまず咲いて立田咲桔梗になった、とある。写真でみると、「立田咲き」とは花びらがなにかに切りさかれてしまったように見えるし、朝顔展で撮った蔓を伸ばさずに咲かせる「切り込み作り」や、「変化朝顔研究会」展で撮ったサツマイモに継がれたアサガオなど、その奥深さに仰天してしまう。
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ほかにも、緑色のチョキから赤いバンザ〜イと成長する多肉植物のリトープス、ひと茎にいくつもの葉ボタンを咲かせる踊り葉ボタン、なぜかみな左巻きに捩じれる水戸偕楽園の梅、杖キャベツでつくったステッキ、海洋堂製の珍花フィギュア、「リカちゃんパンジー」、年に一度の味噌仕込みのこと、背中で笑うアカスジキンカメムシ、ヘカズラでもクソカズラでもないヘクソカズラ……など笑いもたっぷり。ムラサキシキブとピラカンサについてふれた「赤い実、青い実」の項には、こんな一節がある。
そもそも、このように木の実が色づくのは、鳥に食べてもらうために、見つけやすくするためだろう。そういえば、うちのブルーベリーも色づいてきて食べ頃になってきたかな、と思っていると鳥が食べてしまって、いつの間にか無くなっている。くやしいので、最近は網をかけて守っている。
鳥に食べられた実の中にあるタネは、糞といっしょにどこかに落ちて、そこからまた新しい木が芽生えていくのだ。
たくさんのタネのなかからいのちをわずかにつないでいくのは、ヒトでもトリでも、誰でもいい。ただこんなふうにいつも誰かが、誰かのいのちをつなぐ当番として知らず知らずその役割を担っていると考えることは、そう悪くない。SF作家でもある藤田さんの絵本『つきとうばん』(作:藤田雅矢、絵:梅田俊作 教育画劇)は、年に一度どこかの家にまわってくる「つきとうばん」をつとめる父子の物語だ。月のいのちも、誰かがどこかでつないでいる。そして誰かがわたしを、わたしも誰かを。