『若者の介護意識―親子関係とジェンダー不均衡』中西泰子(勁草書房)
「他人事では済まされない一冊」
今日の日本社会では、少子・高齢化が進んでいて、老親扶養や介護が喫緊の課題であることは疑うまでもない。近年では、ようやく制度面での整備(介護保険など)も進められてはきたものの、対応が後手に回っている感は否めないだろう。
そんな状況下で、本書はあえて、実際の老親介護現場の実態よりも、これからそれを担う若者たちの意識に注目している。
というのも、変動期の社会に求められているのは、次世代の担い手が考えていることを明らかにしながら、未来を構想していくことだからである。
この点において本書は、特に若い女性たちを中心に、若者たちの老親扶養に対する意識の実態を実証的に明らかにした本邦初の試みとして高い評価に値しよう。
より具体的にいえば、本書の中で明らかにされているのは、老親介護の中心的な担い手が「嫁」から「娘」へと移り変わろうとしている中で、若い女性たちがそれをどのように受け止めているのか、あるいは、それが同世代の男性たちや親に当たる年長世代の意識とはどう異なるのか、といった点であり、時に、大都市郊外と地方都市といった地域差のような社会的な背景に関する分析をも交えながら議論が展開されている。
特に興味深いのは、「娘」が老親介護の中心的な担い手になりつつある中で、その現象がはらむ両義性が指摘されている点であろう。
すなわち、「嫁」も「娘」も女性であるという点においては、老親介護においても、相も変わらず性別役割分業が再生産されているとする批判的な議論が存在するのは確かである。
しかしながら、「嫁」がイエ制度的な規範の中で「担わされる」状況であったのに対して、「娘」が愛情に基づいて「自発的に担う」状況に移行したことは、それ自体、女性のあらたな権利獲得とも言えるのである。
いわばそれは、「制度から友愛へ」とも言い表されるように、集団としてのまとまりを尊重する家族から、個々人の自立を尊重する家族へと大きく変容を遂げつつあることの一つの表れとも言えるのだろう。
だがさらに、本書の面白さが最も際立つのは、そうした、「個々人の自立を尊重した」家族における介護を通してこそ、既存のジェンダーが再生産されていくという、さらなる「どんでん返し」が待ち構えていることなのだ。
これ以上の内容は「ネタバレ」になってしまうから、紹介しないほうがよいだろうが、しかし、幾層にも複雑化した現代家族のメカニズムを丹念に、かつ実証的に明らかにした意義は大きく、またそれを明らかにしていくプロセスは、あたかも「読み物」のようにスリリングですらあった。
少子・高齢化がますます進むであろう日本社会においては、親世代においても、そして子世代にとっても、老親介護は目をそむけずにはいられない問題であり、本書はまさに、この日本社会を生きる誰にとっても他人事では済まされない一冊になるものといえる。