『男性不況―「男の職場」崩壊が日本を変える』永濱 利廣(東洋経済新報社 )
「男の生きづらさを社会の変化から読み解く一冊 」
いつ頃からかは失念してしまったが、大学で成績をランキング化すると、女子学生がほぼ上位を独占するような傾向が見られるようになって久しい。個人的な体験から言っても、少なくとも10年以上は続いている傾向と思われる。
そのため、成績上位者の表彰を行おうとすると、共学であってもあたかも女子大であったかのような光景が繰り広げられることとなる。もちろん成績は公明正大につけられているのだから、そのこと自体には何の問題もないのだが、一方でいかに男子学生をエンパワーメントしたらよいのかという点は、大学教員のみならず、多くの方が頭を悩ませているところであろう。
この点については、最近の女子学生はやる気のあるものが多くてよい、ということ以上に、おそらくは男性学生がやる気を出せるような社会ではなくなりつつあるという深刻な社会背景があるものと思われる。
さて、本書『男性不況―「男の職場」崩壊が日本を変える』は、まさしくそうした男性たちが不要な存在となっていくような社会の変化を的確に描き出した好著である。
著者は冒頭でこう述べる。「過去数十年間で、労働市場における日本の男性の価値は相対的に低下してしまったのです」と(P3)。
具体的に言うならば、かつて男性たちには、「一家の大黒柱」という言葉があったように、高学歴層であればホワイトカラーとして、そうでなくとも製造業や建設業などで、広く活躍する職場が存在していた。
しかし今日では、ホワイトカラーにおいては男女格差の縮小が進み、一方の製造業や建設業は産業の空洞化によって仕事そのものがなくなりつつある。一方で、少子高齢化の進む中で、医療や福祉といった対人サービスを中心とする、一般的には女性の割合の多い仕事はますます増えつつあるのである。
こうした社会の変化について、本書は各種統計データなどを丹念に読み解きながら検証しているため、その内容には説得力がある。
ただ一点だけ、惜しむらくは、「「女性の地位の向上」自体はよい変化ですが、その影響で男性には困った問題が生じて」(P5)いると記されていることであろう。果たして、女性の地位向上が独立した原因として存在し、その影響として男性に困った問題が生じていると言い切ってよいのだろうか。
むしろ、何がしかの大きな社会の変化が生じていく中で、その中でたまたま結果的に適応できたのが女性たちで、不適応を起こしているのが男性たちなのではないだろうか。この点は、適切に原因と結果を見定めて、男女間に不必要な対立を招くような表現は避けるべきではなかったかと思われる。
しかしながら本書は、上記したような興味深い分析が展開された内容だけでなく、末尾に記された「男性不況対策」も含めて、大いに読む価値のある一冊である。よって世の男性全般に広くお勧めしたい次第である。