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スチュアート・D・ゴールドマン『ノモンハン1939』(みすず書房)

Theme 1 歴史の転換点

 

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1939年5月、満洲モンゴル国境をめぐる日本軍とソ連軍の戦闘は、「ノモンハン事件」(ハルハ河の戦い)として知られる。本書は「ノモンハン」を、一地域で起きた「事件」という枠には収まらない、国際情勢に多大な影響を及ぼした戦闘と位置づけている。『第二次世界大戦1939-45』(白水社)で、アントニー・ビーヴァーも指摘しているように、この戦闘は「地政学的分岐点」として決定的な役割を果たすのだ。

戦闘の期間中に「独ソ不可侵条約」が結ばれ、ポーランド国境にドイツ軍が集結し、欧州における大戦が始まった。8月、日本軍は近代史上、最悪の軍事的敗北を喫するが、ソ連軍の被害も甚大だった。そこでスターリンは情勢に鑑み、日本側の停戦要請を受け入れる方が得策だと判断した。一方、日本では対ソ主戦論の「北進」派が後退、海軍主導の「南進」派が勢いを増し、やがて東南アジアにおける欧州の植民地を襲い、さらには真珠湾で米国との決戦に至るのだ……。

ノモンハン」が欧州戦線と太平洋戦争の「導火線」となった背景として、日本の「過去の遺産」をさかのぼり、「世界の状況」にも一章を割いて論じているので、理解がいっそう深まる。また、日中戦争に関連した蒋介石の戦略、その後の太平洋戦争で繰り返される日本の過ちの萌芽に言及した、巻末「解題」にも学ぶところが大きい。

白水社 藤波 健・評)

※所属は2016年当時のものです。