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清岡智比古『パリ移民映画』(白水社)

Theme 7 残響の移民たち

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恥ずかしいことにどうも映画に不案内な人生を歩んできてしまったので、読みはじめる前には、何の話かまったくわからないということになったらどうしよう、という不安がよぎりましたが、その心配はありませんでした。本のなかでとりわけ大きく扱われる『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』『サンドイッチの年』『オーギュスタン 恋々風塵』『アイシャ』といった映画については詳細すぎるほど詳細に解説されていますし、その他のたくさんの映画についても適宜説明があって、さらになぜその映画を取り上げるのかという文脈についても丁寧に論じられるので、私のようにここに出てくる映画をほとんど観たことがない……という読者でも十分に内容を理解することができます。「パリ」「映画」という2つのキーワードから、おしゃれにきめた人たちの間に飛び交う高踏的な(そしてよくわからない)議論ではなかろうか、と警戒する気持ちもあったのですが、「移民」をテーマとする映画には、生活の厳しさやアイデンティティのゆらぎ、植民地主義の歴史など、重たいながらも想像をめぐらせることはできる重要なテーマがぎゅっと圧縮されていて、考えさせられながら読了しました。ただし困ったのは、ここで出てくる映画をどれも観たくなってしまうこと。どこかで特集上映みたいな機会があればなあ、と思わずにはいられません。

東京大学出版会 宗司光治・評)

※所属は2016年当時のものです。