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森千香子『排除と抵抗の郊外』(東京大学出版会)

Theme 7 残響の移民たち

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2015年1月、シャルリ・エブド社襲撃事件。11月、パリ同時テロ事件。2016年7月ニーステロ事件。

この2年足らずで、フランスの抱える〈移民問題〉がわが国でも急激にクローズアップされた。実行犯の多くがフランスで生まれ育ったいわゆるホーム・グロウン・テロリストであったことの衝撃は大きかったが、それは遥か以前から存在していた問題が不幸な形で前景化したにすぎない。遡ること10年。2005年、パリ郊外暴動事件。パリ郊外で北アフリカ系の青年3人が警察に追われ、逃げ込んだ変電所で感電し、うち2名が死亡した。これをきっかけとして、瞬く間に移民系若者を中心とした暴動が全国に広がった(さらに10年前に公開されたカソヴィッツ監督『憎しみ』を思い起こした人も多かっただろう)。

本書は、フランスの都市政策(=郊外住宅政策)を中心に論じ、「過去30年にわたって深まってきた、フランスの主流社会と移民マイノリティの間の亀裂」について考察する。とくに俎上に載る地域は、2005年の暴動事件の舞台であり、昨年11月のテロの現場ともなった、パリ北東のセーヌ・サン・ドニ県である。フランス国籍を有し、「自由・平等・博愛」を原則とする共和国の教育を受けながら(その意味で2世はもはや公式には「移民」ではない)、実際には彼らを「移民同然」「社会学的移民」として巧みに排除してきた政策・社会構造と、それに対する抵抗の軌跡を、著者は綿密な実証研究から明らかにする。

これは遠からず、われわれ日本人も直面する問題とつながっていることを意識したい。例えば、愛知県の豊田市などの日系人コミュニティにおいて、移住第2世代と呼ばれる若者たちが、差別・排除などの困難に直面している事実にも目を向けるべき時である。

白水社 鈴木美登里・評)

※所属は2016年当時のものです。