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ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義』(みすず書房)

Theme 8 来るべき決断の時
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リーマンショックが起きたとき、政治部記者として自民党を取材していた。福田康夫が政権を投げ出して麻生太郎が首相に就任、一気に解散総選挙に打って出ようとしていた矢先のことだった。その後の展開は周知の通りで、「未曾有」の経済危機を前に解散権を封じられた麻生は追い込まれ解散で大敗を喫して歴史的な政権交代が実現した。

このとき一体何が起きていたのか。政治の劣化か、代議制の機能不全か。いろいろ考えて、その後、本まで出したが、『時間かせぎの資本主義』を読んでいると、背景が見えてくる。

本書は、1970年代以降顕在化し、2008年のリーマンショックで頂点を迎えた資本主義の危機を扱っている。そこで著者が描くのは、戦後の政治と経済の抗争である。ケインズが打ち立てたブレトンウッズ体制は戦前の破産から学んで政治が経済を制御したが、この力関係が70年代以降逆転していく(新自由主義の台頭)。「民主主義が市場を飼いならしているのではなく、市場が民主主義を飼いならしている」のが危機の根源にあるという。

つまり、麻生が負けたのは結局、民主党ではなく、「資本の反逆」に対してだったというわけだ。ポピュリズム批判の背後に〈経済の論理〉を見て、当面の処方箋として「国民国家にまだわずかに残っている余力を動員する」ことを挙げているのも注目される。批判だけしていればよかった国民国家も風前の灯で、むしろ抵抗の拠点なのだ。危機は深まっている。

白水社 竹園公一朗・評)

※所属は2016年当時のものです。