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ダニ・ロドリック『グローバリゼーション・パラドクス』(白水社)

Theme 8 来るべき決断の時

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TPPをめぐる交渉は記憶に新しい。なぜ日本はワシントンのロビイストを動員してアメリカにTPP推進議員連盟を作ったのか? それでもなぜアメリカ議会ではTPPが批准されそうもないのか? 経済学者は自由貿易を賛美するが、それならTPPなど何の抵抗もなく受け入れられるはずじゃないのか? WTO以来、自由貿易、いいかえるならグローバリゼーションをめぐる疑問は尽きないし、しかもいっこうに議論の収束点すら見えないのはなぜなんだろうか?

著者のロドリックの前著は『ひとつの経済学、たくさんのレシピ』(One Economics,Many Recipes)。このタイトルからわかるように、市場と政治の関係を研究してきた経済学者だ。無色透明な比較優位の経済モデルから導き出される市場原理主義だけじゃこの複雑な世界はわからない、市場はむしろ政治=制度をとおした統治なしにはありえない、というのが著者の立場だ。

なぜ東アジアモデルは成功したのか、なぜ国際的な金融危機が起こったのか、開発経済学の最先端の知見を活用して著者が最終的に提示するのは「ハイパーグローバリゼーション」「国民国家」「民主政治」の《さんすくみ》。そこからさらに資本主義3.0の青写真を描いていく。単純なグローバリゼーション批判にも賛美にも違和感を持った方にぜひてにとっていただきたい一冊。

みすず書房 中林久志・評)

 ※所属は2016年当時のものです。