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アビジット・V・バナジー、エスター・デュフロ『貧乏人の経済学』(みすず書房)

Theme 9 開発のこれまでとこれから

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本書の謝辞にも登場するトマ・ピケティさんの『21世紀の資本』をまだ読んでいない人はそちらを先送りにしてでもまず、こちらをひもといてみてほしい。ミクロ経済学ならではの具体的エピソードがどれも面白く、経済書の初心者でも一気に読めるし、よしじゃあ次はマクロなほうにも挑戦してみっか! となるだろうから。というか、あなたは間違いなく、いかに自分が「富裕層」であるかということに気づかされるはずだし。

ここでいう貧乏人とは、発展途上国に暮らす、「開発援助される(べき)人」のこと。だからほぼほぼ、あなたのことではない。ないはずなんだが、それでも、読んでるうちに身につまされてくる。それは、同じく「資本主義社会に生きるヒト」として、目先の快楽を優先させてしまう「貧乏人のふるまい」に誰しも思い当たるふしがあるからだ。ここで語られている、きっと誰かに話したくなる蘊蓄は、まさに行動経済学の証しでもある。

食糧にしろ健康にしろ教育にしろ貧困の根源治療は、なかなか理論通りには運ばない。しかし、にもかかわらずあきらめず、RCT(ランダム化対照試行)を導入し、〈細部を見過ごさず、人々の意思決定方法を理解して、実験を恐れず〉という哲学をつらぬいた、ねばりづよく解決策をひきだしてゆく著者たちには感服する。また、しばしば利用されるエビデンスが、その名も〈世界無断欠勤調査〉というのにも驚かされる。

金融資産としての子供、リスクヘッジ結婚、マイクロ融資、レンガ積み貯蓄……おもにインドでの事例に詳しい(アフリカや中国については類書も参照すべきかと)。ゆえに、必然的に現地通貨単位のルピーでの記述が多い。こういうところ電子書籍で為替レートに連動して円換算できたりするとベターですが、なんにせよ数値データで世界を解読する本なので、縦書き書籍としては数字表記に工夫がこらされてるのは素晴らしいですほんと!

白水社 和久田頼男・評)

 ※所属は2016年当時のものです。