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ハワード・W・フレンチ『中国第二の大陸 アフリカ』(白水社)

Theme 9 開発のこれまでとこれから

 

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あまり居心地のよくない読書だった。本はすばらしい。『ニューヨーク・タイムズ』支局長として世界各地を知る著者が、アフリカへ移住した100万以上の中国人の実情を立体的な取材から描いたものだ。モザンビークリベリア、マリ、ガーナ、ナミビア… 政体や事情もまちまちのどの国にも中国人は入り込み、それこそ何でもしている。「黒人」を低賃金で雇う農場や工場経営者はじめ、建築、医療、密貿易、売春などあらゆる職業で。きっかけは冷戦構造が解体し、欧米がアフリカを見捨てた1990年代半ば、中国政府が「ウィン・ウィン」関係を掲げてこの大陸に莫大な資金を投下し、食料や鉱物などを輸入するというものだった。それが、国家や国営企業と関係ない個人が自ら進んでなだれ込んだ。出身も育ちも生活様式も様々な彼らに共通するのは、とにかく金儲けをすること、「黒人は働く気がない」と考えていること、中国は競争が激しく、共産党にせびられ、環境も悪いストレスフル社会で、帰りたくないと思っていることだ。今の中国との関係がアフリカ諸国にどれほどの負債となるか、鉱物が枯渇するとどうなるか、人口増加は経済成長と結びつくのか。居心地がよくないのは、読後感として「やっぱり中国人は…」という紋切り型を抱え、アフリカの将来に暗澹としている自分に対してである。自分と無関係でないはずの著者の問題提起にどう応答すればいいか。本書にはアフリカとの関連で日本は出てこない。

みすず書房 守田省吾・評)

 ※所属は2016年当時のものです。