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『Bergdorf Blondes 』Plum Sykes(Miramax)

Bergdorf Blondes

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「サマーリーディングにお勧めの一冊」


 最近あまりお目にかからなくなったが「チックリット(chick lit)」という言葉がある。チックリットとはchick literature(若い女性の文学)の略で、若い女性が登場人物となり、自分を取り巻く社会的状況、つまりロマンスやセックスのことなどをコミカルに描いた小説を指す。代表的なものではイギリス人の作家のヘレン・フィールディングが書いて大ヒットとなった『ブリジッド・ジョーンズの日記』がある。アメリカのものではキャンディス・ブシュネルの『セックス・アンド・ザ・シティ』が有名だろう。

 

 チックリットは売れ行きがよく話題にもよくのぼる。今回紹介するのも、このチックリット作品である『Bergdorf Blondes』だが、その前にもう少しチックリットのことを話そう。

 

 チックリットの舞台となるのは、やはりロンドンやニューヨークなどの大きな街が多い。そのジャングルのような街で、どうやってよい男を見つけるかがテーマとなる。主人公は社会が強要するいまの女性の理想像と現実の自分の姿との違いに悩み、セックスという問題にどう対処するのかにも迷う。チックリットは都会に住む女性ならではの文学だ

 

 ところで、今回の作品だが、舞台はニューヨーク。ニューヨークにはバーグドルフ・グッドマンなる高級デパートがあるが、主人公(最後まで名前がでてこない)の一番の親友がこのデパートの跡取り娘のジュリー。ジュリーたちは自分たちの金髪を完璧に整えるために、3週間に1度、1回450ドルでカリスマ美容師に髪を整えてもらい、ハンドバッグを選ぶようにボーイフレンドを変える。しかし、仲間の何人かが婚約をし、婚約した女性の肌の色がとてもよくなるという理由で、主人公とジュリーはPH(パーフェクト・ハズバンド)を探し始める。一方、イギリスに住んでいる主人公の母親は、彼女にイギリス貴族との結婚を強く望んでいる。

 

 主人公は、大きな慈善パーティでファッション・フォトグラファーと知り合い、すぐに婚約をするが、婚約のあと男の態度が豹変してしまう。次に、パリのリッツホテルでイタリアの貴族と出会うが、彼の正体はコネチカット州に妻も子供もいるただのアメリカ人だった。その間に、ロサンゼルスでインディー映画の監督と出会い、彼をジュリーに引き合わせる。次の男は、もうすぐ離婚をするという、映画プロデューサーで、彼女をプライベート・ジェットでカンヌ映画祭に誘う。しかし、この男ともうまくいかなくなったとき、インディー映画の監督と南仏ニースの空港で再会する。主人公は、この監督を好きではないが、どこか心にひっかかりを感じる。そして物語は、イギリスの両親のもとで、誰もが幸せになるハッピーエンドを迎える。

 この作品の面白さは、ニューヨークの社交界にいる若い女性の大衆離れした価値観や、見栄や嫉妬のなかで生きる娘たちの思考回路や行動をコミカルにみせてくれたところだ。ビーチなどで楽しむ、リズミカルで軽快な読み物として最適だ。

 著者のプラム・サイクスは英国ロンドン生まれ。英国ヴォーグ誌に勤めたのち、1997年から米国ヴォーグ誌の寄稿編集者を務める。現在、ニューヨークとロンドンを行き来する生活。髪の色はブルーネットだ。

 

 

 

 


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