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『指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語』菊池美佳子(幻冬舎)

指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語

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 テレフォンセックスと聞いて何をイメージしますか? 私が思い出すのは「セックス・アンド・ザ・シティ」のワンシーン。ニューヨーク在住の独身女性キャリーが元彼とセクシーな言葉の応酬で楽しむ場面です。正直思いました。電話でセックスして何が楽しいのか。そこまでするアメリカ人って本当に性欲が強いんだな、と。

 なので『指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語』というこの本のページを開く直前までこう考えていました。高いお金を払ってまでテレフォンセックスしたいだなんてよっぽど特殊な人たちの物語なんだろうな、と。その通りでした。この本に出てくるお客さんはみんな変態でした。それも私たちの想像を絶する超一級の変態だったのです。

 この世における人類は、本来持っている能力の五~七パーセントしか発揮できていないという説があります。それと同じように、この世における男女は、本来持つ性癖の五~七パーセントしかさらけ出していないように私は思うのです。

 指名のとれないキャバ嬢だった著者、菊地美佳子さん(敬意をこめて、さん付けで呼ばせてください)は、22歳の秋、声が可愛いという特技を生かしてテレフォンセックス嬢へと転身します。そこで出会ったのは、まさに、残り95パーセントの性癖をさらけ出した男たちでした。

 配偶者にも恋人にも見せることのできないフェチズム。実際にやったら倫理的にも法的にもアウトなプレイの数々。それを「自身の姿を明かす必要のない電話回線上」で思う存分発揮する。それがテレフォンセックスの世界だったのです。

 例えばある日、女性のブーツフェチだという男性が美佳子さんに電話をかけてきます。とりわけ好きなのは黒の皮製ロングブーツだと、彼は熱く語りました。

 彼のブーツに対する熱い想いはとりあえず理解したものの、さて、ここから彼は、いったいどのようにしたいのでしょうか。ブーツ姿の美脚の女性を眺めていたいのか、はたまた美脚女性のブーツを失敬して自身で履きたいのか。

 彼の場合は、どちらでもありませんでした。彼は、もっと深い性癖を持っていたのです。

 それは、ブーツとの性行為……セックスでした。

 もうついてこられませんか。いえいえ、これでもかなり苦労して『書評空間』の品位を汚さない、もっともノーマルに近い性癖例をチョイスしたのです。その他はことごとく「閲覧注意」。引用したくでも引用できないものばかりなんですから。

 試しにキーワードだけでも(問題のない範囲で)並べてみましょうか。「セックスレス保険ごっこ」「少女の洗顔」「自称・美少年」「動物の交尾萌え」「嘔吐」「地球」「死体」「咀嚼音」「男体盛り」「ワキ毛」「アイロン台」「第九」……。もういいですか。そうですか。これ以上披露したら読む楽しみがなくなっちゃいますものね。わかります。

 常識をぶち破る性癖の数々。そのすべてに美佳子さんはやさしく寄り添います。高い瞬発力と演技力によって繰り出される彼女のプロフェッショナル・プレイはもはや神の領域といっても過言ではありません。最終章、引退を決めた美佳子さんが、四十路童貞奴隷と別れるシーンにはうっかり落涙してしまいました。感動です。ぜひこの感動を皆さんにも味わっていただきたいと思います。

 さて、少々加熱気味に紹介してきたこの本ですが、ひとつだけ問題があります。書店で買いにくいということです。レジで書店員さんに差し出す時の恥ずかしさと言ったらありません。「ち、違うんです!」と叫びだしたくなること請け合いです。ただ、私は言いたい。「購入する時から美佳子さんのプレイははじまっているのだ」と。ぜひ、この本を堂々とレジに運んでください。私? 私ももちろん、そうしましたよ。おすすめです!

 


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