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『Citizen Girl』Emma Mclaughlin & Nicola Kraus(Washington Square Press)

Citizen Girl

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「女性就職残酷物語、ニューヨーク流」

ニューヨークで日系の経済雑誌の記者をやっていた頃、記事を書くために日本の企業に働く数多くのアメリカ人にインタビューをしたことがあった。アメリカ人社員たちは、自分の言葉が記事になるにもかかわらず、いま自分が働いている会社に対し驚くほど率直な意見を述べた。

彼らの大半が勤めている日本の企業に不満を持っていてその不満は「意志決定が遅い」「役職に就く人間に役目を果たすだけの権限が与えられていない」「仕事のダイナミックさにかける」というものがほとんどだった。

不満の原因は、日米の企業文化の違いからでてくるもので、どちらのやり方がいいとはいえないが、考え方の違いがはっきりと浮き出でいた。

それでは、ニューヨークにあるアメリカ企業はどんなやり方で仕事を進めていくのだろう。その現実をかいまみることができるのが今回紹介する『Citizen Girl』だ。

社会風刺コメディなので、誇張はあるが、日本の会社では考えられない出来事が次々と起こり笑ってしまう。主人公が24歳の若い女性なので、『ブリジット・ジョーンズの日記』のように、若い女性が仕事と男を求めて現代社会を彷徨というチック・リット文学でもある。

著者のエマ・マクラフリンとニコラ・クラウスは、ニューヨークの中産階級家庭に雇われた子守を主人公にして、金持ちの家庭を内側から描いたコメディ『The Nanny Diaries』を書いたコンビである。

2002年に出版された『The Nanny Diaries』はアメリカで200万部を超えるベスト・セラーとなった。映画製作権はミラマックス社が50万ドルで買い取り、すでに映画になっている。

その大ヒットに続いた作品がこの『Citizen Girl』。『The Nanny Diaries』を出版した出版社は続編となる『The Nanny Diaries 2』を書くように著者に求めたが、彼女たちは、いま自分たちが一番関心のあるのは若い女性の就職状況や仕事環境だと出版社の希望をはねつけた。

その結果、別の出版社が25万ドルの出版契約金を払って出版されたのがこの『Citizen Girl』だ。

さて、その『Citizen Girl』の内容を少し紹介しよう。主人公のガール(若い女性を代表するこの主人公は単に「ガール」と呼ばれる)は大学を卒業してニューヨークにあるフェミニズムを提唱する非利益団体に勤めている。

上司の女性は、大きな会議のスピーカーに抜てきするという餌をちらつかせガールを酷使する。しかし、ガールがスピーチ原稿を仕上げると、その仕事を盗み自分の気に入った女性をスピーカーと決めガールの原稿をあげてしまう。

文句を言ったガールはクビとなり、ニューヨークで彼女の職探しがはじまる。就職活動中にバスターという青年と知り合うが、バスターは6人のルームメートがいる。苦労の末にやっとみつけた会社は、女性向けに美容や健康情報を流すインターネット・サイトのマイ・カンパニー。ガールの仕事は新たなサイト利用者を開拓するというものだった。

給料は最高、仕事もやりがいがある・・・はずだったが、そこでガールはお金を取るか、自分の良心に従うかの選択に迫られる。

ニューヨーク流の仕事の早さや株主の利益のためなら何でもやるアメリカ企業の様子、それに若い女性が直面する組織内の人間関係などがコミカルに描かれた作品だ。


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