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プロの読み手による書評ブログ

2010-12-21から1日間の記事一覧

『倍音』中村明一(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「音・ことば・身体の文化誌」 2006年7月のブログで紹介した『「密息」で身体が変わる』の著者、中村明一が新著『倍音』を上梓した。人間同士のコミュニケーション手段として欠かすことのできない「音」の倍音構成をもとに考察された文…

『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』岡美穂子(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 東アジア海域を舞台として、近世世界史がようやく見えはじめてきている。本書を読み終えて、最初にそう思った。西欧中心史観としての「大航海時代」と日本のナショナル・ヒストリーとしての「南蛮貿易」は、それぞれそれなりに研究蓄積…

『どんぐり姉妹』よしもとばなな(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「一部だけ西部劇かも」 よしもとばななの小説は、真綿にくるまれたような言葉で書かれている。徹底的にほぐされて骨も抜いてあり、ごつごつしたところがない。セッカチなおじさん的思考の人からすると、のろまでじれったい、いらいらす…

『伊藤一刀斎』好村兼一(廣済堂出版)

→紀伊國屋書店で購入 「パリ在住剣豪の剣豪小説」 『伊藤一刀斎』の作者、好村兼一は私のパリのアパートから徒歩数分の所に住んでいる。大学の時にパリに来て気に入って住み着いてしまった人だが、フランスの剣道界で彼の名を知らぬものはいないだろう。剣道…

『幼女と煙草』ブノワ・デュトゥールトゥル(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「フランス風ブラックユーモア」 イギリス人のブラックユーモア好きは有名だ。かつてダイアナ妃が交通事故で亡くなった時に、同僚が尋ねた。「ダイアナ妃が最後に食べたデザートは何だか知っているかい?」私が分からないと言うと、「タ…

『All the Living』C.E.Morgan(Picador)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーカー誌が期待する若手作家の作品」 人は自分の人生を生きる時、往々にしてふたつの選択を迫られる。ひとつは、自分に課された状況を受け入れ生きていく道。もうひとつは、流れに背いて今ある人生から外れていく道だ。どちら…