『フランス人の流儀 日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』日仏経済交流会(大修館書店)
「フランス(人)との上手なつきあい方が学べる!」
フランスに赴任する人や長期滞在を考えている人は元より、短期留学を考えている人、または単なる観光旅行よりももう少し深くフランス人と触れ合いたいと思う人々にとって、『フランス人の流儀 日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』は必読書と言えるかも知れない。実際にフランスに長年住んで仕事や勉強をしていた人の証言は、どんな旅行案内書よりも役に立つ。
資生堂、サントリー、トヨタ等の日本を代表する企業のフランス進出苦労話は、その辺の小説よりもよほど面白く、ドラマに満ちている。フランスの会社との合弁会社を作り、フランス人のクリエーターを採用し、「世界で一か所でしか販売しない香水専門ブティック」をパリに開く。発想の豊かさと、信頼関係に基づくコミュニケーションの確立が見られる。
サントリーは苦労してシャトー・ラグランジュを買収するが、フランス的経営を学ぶために専門家に師事する。そこで日本とは全く違うフランスの習慣を徹底的にたたき込まれる。近隣のシャトーのオーナー(とは言え、一級のシャトーは別のサークルなので、招待することすらかなわないらしい)を招待して晩餐会を企画する時も、細部に至るまで「指導」される。筆者の永田氏は指定された1975年のシャトー・ディケムを探しにジュネーブまで出かけていく。
一級シャトーのラフィットがサントリーの会長夫妻を歓迎するために開いた晩餐会では、何とラフィットの1900年ヴィンテージが饗されたという。オーナーのエリック男爵は言う。「やる時は、全て最上級のものでなければ意味がないよ。」こんな言葉の似合う人も、実行力のある人も、なかなかいないだろう。地元とのコミュニケーションを大切にし、思い切った設備投資をしたおかげで、今やラグランジュの品質の良さはフランス人の間でも評判になっている。
かつてフランスでトヨタの販売店を回ると、必ずこう言われたそうだ。「安定性が良くない、乗り心地が悪い、内装が貧相、陰気だ、材質が安っぽい。」では何故売れるのかと尋ねると、答えは「故障しない。装備品は全部ついている。そのわりには安い。」だ。私もパリでタクシーに乗り、その車がトヨタである時、「トヨタは故障しない。何でもついている。」と運転手から良く聞かされるので、思わず笑ってしまった。
フランス社会はエリート社会であると良く言われる。その「エリート」養成機関である、「グランドゼコール」で学んだ日本人の体験や、彼らとつきあう方法等も豊富に述べられている。フランス人は働かず、バカンスのことばかり考えているという伝説(?)も、正しくはないと言うことがよく分かる。カードルと呼ばれる管理職の人々は、日本人に負けないくらい良く働いている。しかし、バカンスもきちんと取る。まさに「アール ドゥ ヴィーヴルArt de vivre(生きるための美学)」が明確なのだ。
物質的には豊かになったが、精神的にはまだ満足度が低い日本。最近ではその物質的豊かささえ脅かされているようでもある。そんな日本にとって、フランスから学ぶべき事は多い。そのためには、自国とフランスの文化、伝統を良く学び理解し、胸襟を開き真摯な姿勢でつきあい、フランス語を学ぶことが大切であるということが、情熱を持って語られている。