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若松孝二 インタビュー

映画監督としての自分の原点は、やっぱり新宿という町にあります。

その象徴が、蠍座であり、『天使の恍惚』であり。『天使の恍惚』は、新宿の交番テロのシーンなんかに、商店街が上映反対と騒いで、封切り一日でだめになっちゃったけれども。今回の新作『実録・連合赤軍』の封切りも、そういう意味で、どうしても新宿にこだわりたかった。それも、シネコンじゃなくて、町中の普通の映画館で公開して、たくさんのお客さんを路上まであふれさせたかったんですよ。その夢が、今年の3月にテアトル新宿で実現しました。新宿は、僕の映画を見に来てくれるお客さん、僕と似たところのあるようなお客さんたちが集まってくる町だと思ってる。

ゴールデン街や思い出横町なんかが、今でも残っているんだからね。(談)


新宿というのは、お世辞でもなんでもなく紀伊國屋なんだよ。今だとアルタもあるけど、当時は待ち合わせって言ったら紀伊國屋しかなかった。西口なんて小便横町ぐらいしかなかったからね。

田辺茂一さんには、何故かかわいがってもらって、よく銀座に連れて行かれましたよ。馴染みの原宿の寿司屋なんかにもね。大島さんなんかより、親しかったんじゃないか。ホントは、俺の映画を隠れて見ていたんじゃない(笑)。もともとは、銀座の同じクラブで飲んでいた時に会った。一九六三~四年だと思うけど、監督になったころはよく会社に連れて行かれたからそのころだね。当時は紀伊國屋もそんなに大きくなかった。

それで、サンフランシスコに紀伊國屋ができるというんで、招待するからアメリカ行かないか、って言ってくれて、今は入れないけど、あの当時は平気で行けたから、色んな作家連中と銀座のママさんで飛行機を貸し切り状態にして行ったんだよ。

吉岡康弘も一緒に行って、彼がカメラ廻していて、俺も結構撮ったんじゃないか? そんな感じだから、田辺さんとは、新宿でも俺達が飲んでいるところに顔出したりしてたからよく会ってた。普段は猫みたいにおとなしいのに、ウィスキーを口に入れるか入れないかで変わっちゃって、それがホント面白いんだよ。

俺にとって、新宿は差別しない街だと思っていて、田舎から出てこようが、どっから出てこようが、インテリであろうがなかろうが、下駄はいても草履はいててもね。かつてはそれが浅草だった。それが、今の新宿の歴史じゃないのかな。もちろん、蠍座にせよ、ユニコンにせよ色々挙げればあるけれど、象徴的に言えば、紀伊國屋前で待ち合わせして、そこからそれぞれの場所に出陣するって感じなんだろうな。(談/「ifeel 読書風景」二〇〇五年冬号より転載)


若松孝二

若松孝二 (わかまつ・こうじ)

1936年、宮城県生まれ。映画監督。現役としては日本で最も多作な監督の一人。最新作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は、第58回ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞、国際芸術映画評論連盟賞を受賞。

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