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平沢剛 エッセイ

1960年代の映画を研究している私にとって、新宿は特別な意味を持つ場所である。新宿という街を舞台に、1960~70年代に様々な傑作が生みだされているからだ。

しかし、ここで重要なのは、優れた作品や作家を称揚するのではなく、新宿という街そのものが、そうした作品、作家を創りだし、当時の芸術、文化を支えていたという事実に目を向けることである。作家や作品の固有性、特異性ではなく、新宿という街が、すべての創造の中心であり、群れとしての映画、群れとしての芸術、群れとしての文化に、その可能性があったのだ。

そうした観点から現在の新宿を考えるとき―もちろんこれは新宿だけにとどまることではない―その変化は明白であるが、しかしそこに身を置いたとき、新宿という土地が持つ強烈な記憶を至るところに感じるのも紛れもない現実であり、現在である。そうした新宿との絶えざる対話のなかに、今なお、新しい何かが生まれる可能性があるに違いない。


平沢剛

平沢剛 (ひらさわ・ごう)

1975年、神奈川県生まれ。映画研究・明治学院大学非常勤講師・『アンダーグラウンド・フィルム・アーカイブス』河出書房新社)、『若松孝二 反権力の肖像』作品社四方田犬彦と共編著)、『遺言 アートシアター新宿文化』河出書房新社葛井欣士郎聞き書き)など。

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