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第6位 『私が語りはじめた彼は』 三浦しをん

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――胸は痛む。幸せなときもそうでないときも。――「ミステリ+心理小説+現代小説」というとてつもない小説です。1ページ目からぐんぐん引き込まれます。久しぶりに面白いお話を読んだ満足感。三浦しをんはブレイク寸前!!
〔松山店・徳水和子〕

ある大学教授をとりまく男女の愛憎を静かな筆致で描いた作品。語りが冷静であるからこそ、その向こうに透けて見える熱くどろどろとした思いが際立ち、この温度差がとても魅力的だ。この本が教えてくれるのは、人を愛しそして愛されたいという思いは貪欲だということ。まるでそれが海水であるかのように、飲んでも飲んでも満たされないばかりか、どんどん渇きは増す。そしてみんな孤独だということ。三浦しをん、渾身の一作。
〔新宿本店・野口亜希子〕

この小説を一言で表現するのは、とても難しい。ひとつ言えるのは、一行目から三浦しをんの仕組んだ迷宮のとりこになる、ということ。様々な女達を愛した大学教授の一生が、5人の男の口から語られる。けれど、読み終わったところで、大学教授の実体はつかめない。ただその一人の男に対する色々な人の色々な想いだけが交錯しているだけだ。人間が人間を思うとき、そこには様々な色をした感情があって、三浦しをんはそれを何色とも言えない一枚の布に織り上げた。美しく巧みな作品だ。
〔新宿本店・今井麻夕美〕

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