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『 グーグル・アマゾン化する社会』森 健(光文社)

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「一極集中への警鐘」

Googleが/Amazonが/Web2.0が凄いという本が最近巷にあふれているが、 本書はこれらのサービスの凄さや面白さを宣伝する本ではなく、 ネットの進化によって発生する一極集中の問題について議論した本である。

ネット上のGoogleAmazonなどのサービスのおかげで、 今までアクセスできなかった情報に簡単に触れることができるようになったのは間違いない。 沢山の情報が手に入るようになれば人間の行動は多様化しそうなものであるが、 実際はこのような予想に反し、 特定の本がベストセラーになったり特定の会社がひとり勝ちしたりする現象が最近はなはだしい。 簡単に情報を手に入れることができるようになったおかげで、 人気のあるものについての情報が簡単に行きわたるようになり、 誰もがその情報に流されてしまう可能性がある。 また、個人が積極的に情報ソースを選択する「パーソナル化」サービスが普及すると、 誰もが自分の好きな情報だけを見るようになり、 同じような意見をもつグループが固定化する可能性もある。 このような最近のネットのトレンドのおかげで 激しい一極集中が起こりやすくなっていることを著者は危惧している。

一極集中化に関連したトラブルは私も経験したことがある。 参加者が数万人いる掲示板において私がある意見を述べたとき、 対立意見を持つ複数の参加者から罵声をあびせられて 結果的に退散してしまったことがあるのだが、 数万人の参加者全員が私と対立する意見を持っているわけではなかったとしても、 掲示板の記事を見ると声の大きな対立意見だけが目に入るため、 ほとんど全員がその意見に賛成しているように感じられ、 そのような意見につい同調してしまうということは充分考えられる。 また、あくまで意見を異にする参加者は黙っているか退散するかしてしまうため、 同じ意見を持つ人間だけが残るということも充分考えられる。 このような掲示板では意見が一極集中しやすいのは当然であるが GoogleAmazonのおかげでこれが世界的規模で発生しているとすれば 危険なことであろう。

一極集中の原因についての著者の考察は説得力があるし、 同調圧力についての似た考えの表明も増えてきているが、 残念ながらこの現象の証拠は全然示されていない。 しかし最近はネットワーク分析の研究者によってこのような現象の分析が行なわれている。 たとえばDuncan Wattsは、他人の評価が見える世界においては一極集中が起こりやすいという現象を 実験で証明している。 本書を裏付ける解析/実験結果は今後増えてくることだろう。

著者は一極集中について悲観的であるが、 このような現象はシステムの特性に起因するものであるから、 システムを変更すれば全く異なる状況になることも充分考えられると思う。 ネット上で誰かの意見に耳を傾けることは簡単だが、 別の人の意見にも耳を傾けることもやっぱり簡単なのである。 また、 人為的に情報の流れを制御して、 ガラパゴスのように分裂した環境を作ることができれば、 環境ごとに全く異なる進化がみられるかもしれない。 ちょっとした操作で神のように進化を制御できば実に面白いだろう。 現状のシステムでは一極集中の問題が確かに存在することをふまえて、 多様性を維持する新しいシステムを作っていきたいものである。

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