書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-05-28から1日間の記事一覧

『蠅の王』ゴールディング(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「心の闇」 パリに住んでいる辻仁成が、新作の『ピアニシモ・ピアニシモ』に関し、「W・ゴールディングの『蠅の王』が好きで、ああいう少年小説を書いてみたかった。」と新聞紙上で語っているのが目に留まった。 私は『蠅の王』を毎年高…

『乗っ取られた聖書』 秦剛平 (京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 聖書が「乗っ取られた」とは穏やかではないが、「七十人訳聖書」を一般向けに紹介した本である。聖書文献学の入門書にはおもしろい本が多いが、本書もめっぽうおもしろい。 「七十人訳聖書」とは妙な名称だが、アレキサンドリアに大図書…

『香水―ある人殺しの物語』 パトリック・ジュースキント (文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 つい先ごろ、「パフューム ある人殺しの物語」という映画が、日本に上陸した。あちこちのブログで紹介されていたので、たぶんまだどこかで上映しているだろうと思っているうちに、時が経ってしまったのだが。 本書はその原作。映画もベ…

『病気だョ!全員集合 月乃光司対談集』(新紀元社)

→紀伊國屋書店で購入 ●ある男の復讐、そして復活の書 著者の月乃光司は、対人恐怖症、醜形恐怖、ひきこもり、アルコール依存症、自殺未遂、リストカット、境界性人格障害の元当事者。精神病院に3回入院した経験もある。「壊れた人間」としてその人生の大半…

『象徴の貧困――1.ハイパーインダストリアル時代』ベルナール・スティグレール[著]ガブリエル・メランベルジェ+メランベルジェ眞紀[訳](新評論)

→紀伊國屋書店で購入 ●「精神のテクノロジー、精神のポリティックス」 ≪本書で論じられる主題は、明らかに、時代の雰囲気のなかにある≫。その雰囲気の徴として、次の四つの点が挙げられよう。まず、ハイデガーが定義した近代――普遍数学と技術による自然支配…

『錯乱のニューヨーク』レム・コールハース[著]鈴木圭介[訳](ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ●「マンハッタンはどこまで完璧でありえるか」 「委員会が提案したマンハッタン・グリッド―――分割される土地は誰のものでもなく、そこに描き出される人々の群れは架空のものであり、そこに建てられる建物は幻影であり、その中で行われる…

『ハイデガーとハバーマスと携帯電話』ジョージ・マイアソン(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ケータイ・モデル」 ケータイというのは奇妙な道具だとつくづくと思う。それは近さを遠さに変えてしまうものであり、遠さを近さに変えてしまうものだ。仕事の打ち合わせなどで相手がもぞもぞとケータイを取りだすと、気が殺がれていや…