書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『変身-カフカ・コレクション』 フランツ・カフカ[著] 池内紀[訳] (白水Uブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「カフカ、『変身』に見られる家族の自立」 夏休みといえば宿題、宿題といえば感想文だが、久しぶりに手に取った『変身』は多様な読み方ができる稀有な小説であった。 『変身』は、高校時代に読んだきりだから、内容も漠然としか覚えて…

『哲学者たちの動物園』ロベール・マッジョーリ (白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「動物から考える哲学」 本を手にして、思わず笑ってしまった。実はまったく同じ内容の企画を立てたことがあったからだ。新約聖書の四福音書の著者に、それぞれ象徴となる動物がいるように、哲学者たちもまた動物を思考の同伴者とするこ…

『「慰安婦」問題とは何だったのか-メディア・NGO・政府の功罪』大沼保昭(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 戦後処理の失敗は新たな戦争の火種になる。これは古今東西の歴史をひもとけば容易に分かること…

『ウィルソン氏の驚異の陳列室』ローレンス・ウェシュラー[著] 大神田丈二[訳] (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 そう、あのスタフォードも『驚異装置』展をロサンゼルスで開いた ジョルジュ・ペレックの『美術愛好家の陳列室』を読みながら思い出さずにすまなかった本がある。もはや少しく旧聞に属すが、ローレンス・ウェシュラーの"Mr. Wilson's Ca…

『大きな熊が来る前に、おやすみ。』島本理生(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「ライン跨ぎ」 「他の人はこの作品についてどう言うかな?」というのが表題作を読んでの最初の感想だった。無防備というか、身も蓋もない表現が平気で出てきて、今にも「ヘイヘイ」というヤジが聞こえてきそうなのだ。冒頭など次のよう…

『ハワイ』森山大道(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「ハワイの彼方にある孤独」 世界の観光地で、ハワイほど陳腐なイメージを担っているところはないだろう。どちらにご旅行へ? と聞かれても、ハワイだとは言いたくない、そんな感じがある。あらゆるものが旅行者のためにお膳立てされ、…

『『嵐が丘』を読む : ポストコロニアル批評から「鬼丸物語」まで』川口喬一(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「作品の歴史と批評の歴史」 エミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』を、その批評の歴史から振り返って読むという、ありそうでなかった一冊で、楽しく読めた。印象批評からニュー・クリティシズム、そしてポストコロニアル批評にいたるまで…

『美術愛好家の陳列室』ジョルジュ・ペレック[著] 塩塚秀一郎[訳](水声社)

→紀伊國屋書店で購入 全美術史を壺中に封じる、これも「記憶の部屋」だ 大きな部屋の壁一杯に何十枚かの絵が掛けられている、考えてみるほどに奇妙な絵の一枚や二枚、誰しも目にしたことがことがあるだろう。壁の一部がいわゆる加速遠近法でぐっと奥に向かっ…

『美しい夏』 チェ-ザレ・パヴェ-ゼ[著] 河島英昭[訳] (岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「夏の供犠」 「生きていくって思い出すことなのね」と、ある16歳の少女に言われ、胸を突かれたことがある。近頃のわたしにとって、読書とは思い出すことのようだ。『美しい夏』も例外ではなくて、読み始めるなり、あたかもデジャ・ヴュ…

『エロイーズとアベラール : ものではなく言葉を』マリアテレーザ・フマガッリ=ベオニオ=ブロッキエーリ(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「伝説のカップル」 アベラールとエロイーズ。ルソーの『新エロイーズ』にいたるまで、西洋の人々の心をかき立てた伝説のカップルの物語は、二人の書簡を収録した一冊の書物『アベラールとエロイーズ』として残されている。ただしこの物…

『記憶の部屋-印刷時代の文学的‐図像学的モデル』 リナ・ボルツォーニ[著] 足達薫、伊藤博明[訳] (ありな書房)

→紀伊國屋書店で購入 やっぱ好きでたまらぬ人が訳さなくては、ね 記憶術、いろいろな呼称があるが、たとえばアルス・メモラティーウァ。書物が超貴重だった古代・中世を通して、学者や雄弁家たちは諸学説、古代典籍の行句をひたすら記憶し続けるしかなかった…

『冷たいおいしさの誕生 日本冷蔵庫100年』村瀬敬子(論創社)

→紀伊國屋書店で購入 新鮮でないものをわざわざ食べたくないもんねーという感覚を喪失した100年 数年前の暑い夏、冷蔵庫が壊れた。それまで代々友人からの譲り受けをつないで使っていたので、新品を買うのは初めてのこと。ごく普通のものは思ったより値段は…

『夜のミッキーマウス』谷川俊太郎(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「おとなになってから出会える詩もある」 またしても谷川俊太郎さんの詩だ。 私は谷川さんの詩がよほど好きなのだ。 谷川さんにはまだお会いしたことはないけど こんな風なラブレターをあちこちに書いていれば、 きっといつか逢えるだろ…

『イエナの悲劇 : カント、ゲーテ、シラーとフィヒテをめぐるドイツ哲学の旅』石崎宏平(丸善)

→紀伊國屋書店で購入 「フィヒテの旅路」 一九世紀末から二〇世紀の初めてにかけてのドイツは、人々の才能が沸き上がるような異例な時期だった。ゲーテがおり、シラーがいるだけではない。カントもまだ生きているし、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルとドイツ…

『キャンディとチョコボンボン』収録「いまあじゅ」大矢ちき(小学館文庫)

→クリックして画像を拡大 「いまあじゅ」pp.254-255 →紀伊國屋書店で購入 名作「いまあじゅ」で、マニエリスムがメディアの問題になった 小学館文庫に大矢ちきが二冊入った。『おじゃまさんリュリュ』と『キャンディとチョコボンボン』。日本漫画史がマニエ…