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『魂(ソウル)のゆくえ』ピーター・バラカン(アルテスパブリッシング)

魂(ソウル)のゆくえ

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「祝!復刊!」

改訂復刊に際し、言を極めて慶びたい。青春の書であって、ソウル・ミュージックのみならず、ポピュラー・ミュージック全領域における名著の改訂新版。買うべし、としかいいようがない傑作。音楽なしでは生きていけないような本当の音楽好きを識別する試金石。やっぱり、ネイティブの人ならではの歌詞解説が良い。例えば、スモーキー・ロビンソンの有名なSo take a good look at my face….tracks of my tearsの部分の解説!この曲のメロディーを心に重ねながら、この部分を読んで感動できない人は音楽も詩も分からない人だ!と断言できる。

聞いてみたい気にさせる、という機能においても、本書に勝る書物はない、と断言できる。改訂にあたって大幅に見直されたレコードガイドは、今回も極めて秀逸である。ノラ・ジョーンズを再評価し、アリーサ・フランクリンに辿り着くのも良かろう。1989年、新潮文庫で出ていた当時の黒人音楽評論全般がマニア向けというか、黒人原理主義のような傾向が強く、バラカン氏もそこに不満を感じていたのではないかと思う。ソウル・ミュージックは素敵なポップミュージックなんだよ、と言いたかったのだ、きっと。

本書に影響を受けて、関連書を、昔、幾つか買った。三井徹の「黒人ブルースの現代」、グリル・マーカス「ミステリ-・トレイン」 et cetera et cetera。以前、ここの書評で取り上げた英Continuum社の33 1/3シリーズも、各著者の思い入れたっぷりで良い。音楽好きは全巻揃えるべきであろう。

英語が分かるようになって音楽の楽しみも広がった気がする。ダイレクトに歌詞が、自分の心の中でさえ翻訳せずに、聞こえてくるのは素直に嬉しい。ソウル・ミュージックへの最大のスワンソングである。

(林 茂)


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