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『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル(早川書房)

これからの「正義」の話をしよう

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「今、「正義」を問いただす」

 昨年(平成22年)の上半期も終わりに近づいた頃、1冊の本が正に「革命的」とも言うべき一大ムーブメントを起こした。


 ハーバード大学教授マイケル・サンデル氏が、自身が大学で講義する政治哲学の授業を書籍化した「これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学」がそれだ。平成22年4月から6月にかけて、「ハーバード白熱教室」と題してNHKで放送された事も記憶に新しいのではないだろうか。(テレビ放送された「ハーバード白熱教室」は、後に、DVDとして発売された。)

 本書は「正義」について書かれた政治哲学書であるが、「正義」とか「哲学」だとかと言うと何か小難しい事が書いてあるのではないかと思う人もいるかもしれない。確かに、「正義とは何か」や「公平さとは何なのか」、また、私達にとって「何が正義なのか」、「正しいとはどう言う事なのか」と言う問いには簡単には答えられるものではない。

 しかし、サンデル教授は解りやすい例えを用いて、最も基本的で重要な問題を様々な角度から捉え、「正義」や「公正さ」を説いている。

 例えば、「5人を助けるために1人を殺すのは正しいのか?」や「遭難して食料が尽きた状態で、3人が生き延びるために体調を崩した1人を殺し食べるのは正しいのか?」、また、「大学入試でのマイノリティに対する直接の優遇措置は公正なのか?」などだ。

 この他にも過去の事件や災害などの具体例を挙げながら、幸福、自由、美徳の3つの観点から「正義」に迫っている。また、本書のような難しいテーマでも面白くし飽きさせない理由は、サンデル教授が次々と繰り出す具体例が身近な上に、「正義」へとアプローチする姿勢が真摯であり、彼の言葉が明確であるからではないか。

 私自身、本書を読んで「正義とは何か」を問う事は、自分が信じるものが果たして本当に正しいのかを問う事と同義であると感じた。もちろん、自分自身の「正義」が他の人の「正義」と必ずしも同じであるとは限らない。だからこそ、「正義とは何か」を考え続け、議論し続ける事が重要であるのだとも感じた。

 皆さんも本書を読み、また、DVDとして発売されている「ハーバード白熱教室」を見て、「正義」と何なのかを考え、「正義」に関する自分自身の見解を批判的に見つめ直し「正義」対して自分が何を考え、またなぜそう考えるのかを見極めてはどうだろうか?見極めた先に、「いまを生き延びるための哲学」が存在するかもしれない。

(新宿南店仕入課 西山純一)


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