キャス・サンスティーン『最悪のシナリオ』(みすず書房)
Theme 6 リスクへの備え
2011年の原発事故後、放射能を「正しく怖がる」という表現が使われた。寺田寅彦も1935年の浅間山の小噴火に際して「正当にこわがる」という表現を使った(「小爆発二件」)。しかし、どうすれば「正しく」怖がることができるのだろうか。さらには、正しく怖がったうえで、何に、どこまで備えればよいのか。本書は、気候変動への対策を軸に、テロやオゾン層破壊などをとりあげながらその問いに答える。
政府も個人も、リスクに対して「過剰反応」か「完全な無視」かの両極端に陥りやすい。サンスティーンはそれに対応する策として、2つの考え方をとりあげる。
ひとつは、損害が予見されるものを避けるという「予防原則」である。これは欧州の環境政策などで唱えられてきた。しかしあらゆる行為には(さらには行為しないことにも)損害の可能性があるため、どのように適用するかが問われる。本書では「壊滅的な損害」および「不可逆的な損害」を避けるという予防原則を提案する。しかしこれだけでは、「どこまで」備えるかには答えていない。そこで第二にとりあげるのが、とくに米国が重視する「費用便益(コスト-ベネフィット)分析」である。サンスティーンはその限界を指摘しつつも、将来世代との「世代間中立原則」にも配慮したその運用を提案する。
本書は「最悪のシナリオ」への対策を合理的に考える方策を提供してくれる。次に問われるべきは、だれがそれを担うかだろう。
(東京大学出版会 住田朋久・評)
※所属は2016年当時のものです。