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プロの読み手による書評ブログ

『The Graveyard Book』Neil Gaiman(Harpercollins Childrens Books)

The Graveyard Book

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「墓場で育った子供の物語」


 「The Graveyard Book」。ファンタジー作家であり映画の脚本も手がける超人気作家ニール・ゲイマンの作品タイトルだ。

 どこかで聞いたようなタイトルだと思っていたら、本の終わりに著者自身がこの本はラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」にヒントを得たとあった。

 「ジャングル・ブック」は映像としては知っているが、原作を読んだことがない。

 僕が知っている「ジャングル・ブック」の話は確か虎に追われた少年が、ジャングルの中でオオカミに育てられ、ジャングルに棲む動物たちと仲良くなり、彼らの助けを借りて再び人間の世界に戻るというものだった。

 「The Graveyard Book」もこのストーリーラインを下敷きとしている。違うところは、赤ん坊が成長していく舞台が墓場(グレーブヤード)であり、彼を育てるのがゴーストたちだというところだ。

 物語は鋭いナイフで両親、姉の3人を殺したマン・ジャックが最後のひとりを殺すために赤ん坊の部屋に向かうところから始まる。

 しかし、マン・ジャックがその部屋に入ったとき赤ん坊はすでにベッド抜け出し、夜の霧につられて丘の上にある墓場へ向かっていた。

 墓場ではゴーストたちが死んだばかりの家族の頼みを聞き入れ赤ん坊を育てることにする。ゴーストは自分が埋められた場所でしか存在できないので、赤ん坊の家族はその墓場では暮らせない。そこで、250年前から子供を欲しいと思っていたオーエンズ夫婦が両親役となり、死の世界にも生の世界にも属していないシラスが後見人となることが決まる。シラスは墓場を出てこの子供のために食料やそのほか必要なものを運ぶことができる。

 また、ゴーストたちは赤ん坊に「フリーダム・オブ・グレーブヤード」の力を与えことにも賛成する。ノーバディ・オーエンズという名前がつけられた子供は、「フリーダム・オブ・グレーブヤード」の力によりゴーストのように闇のなかでも目が見え、物を通り抜けられるようになる。そればかりか、修行を重ねれば自分の姿を消す「フェイド」や人間の夢になかに入り込む「ドリームウォーク」の術も会得することができる。

 赤ん坊は墓場での生活のなかで、ウェストミンスター公、第33代合衆国大統領、生意気だが気のいい魔女、感傷的な詩人などの墓場で暮すゴーストたちと知り合いになっていく。

 そうして、ひとつの試みとして学校にも通い始める。そこでスカーレットという女の子とも仲良しになる。

 一方、マン・ジャックは逃した主人公を殺すことをあきらめていない。彼は、古代から存在する魔力持つ者たちの結社の一員で、自分たちの破滅を防ぐためには主人公を殺さなければならない。

 親を失った子供が魔力を身につけ、闇の力と戦うというストーリーはハリー・ポッターにも見られるものだ。

 しかし、そのことでこの物語のオリジナリティーが失われていないのは著者の優れた才能のせいだろう。

 家族愛と、人生肯定をひとつの大きなテーマとするこの物語は、大人も十分楽しめるものだった。すでに続編を期待する声が上がっている。


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