書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ネオリベラリズムの精神分析-なぜ伝統や文化が求められるのか』樫村愛子(光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「寄る辺のなさ」を埋め合わせるものは何か いま、人々は日々を生きる中で、「寄る辺のなさ」の感覚を強めている。この「寄る辺のなさ」(=流動化・不安定化=「プレカリテ」)の根には、生活を成り立たせる物質的基盤(雇用や収入)が…

『20世紀』 アルベ-ル・ロビダ[著] 朝比奈弘治[訳] (朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 発明とモードに狂うのは内がうつろなればこその たとえば知る人ぞ知る愉しい図版集、デ・フリエスの“Victorian Inventions”(邦訳『ヴィクトリアン インベンション』)をのぞくと、19世紀末人士が発明狂の新時代をどんな具合に夢みてい…

『村上春樹にご用心』内田樹(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「村上春樹が苦手な理由がわかりました」 村上春樹は「好き、嫌い」で語られることが多い作家だ。筆者も、昔からどうも苦手だった。でも、なぜか、相当数の作品を読んではいる。それで「あなたも村上春樹が好きになれる」という本がある…

『さよなら、日本』柳原和子(ロッキング・オン)

→紀伊國屋書店で購入 「あるノンフィクション作家の30年」 柳原和子さんの著作と初めて出会ったのは、名古屋今池にある「ちくさ正文館」である。1995年、アメリカ留学を予定していた私は、英語の教材を買い求めようとしていたはずだ。そのとき『「在日」日…

『ホフマンと乱歩 人形と光学器械のエロス』平野嘉彦(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 本当はフロイトその人が一番あぶないのかも マラルメの「純文学」的難解詩にアキバ系人造美女の構造を見た立仙順朗氏のエッセーに感動させられた『人造美女は可能か?』を読んだ後、今年の新刊なら平野嘉彦『ホフマンと乱歩 人形と光学…

『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足――神経内科からみた20世紀』 小長谷正明(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「多彩な著名人の病状から歴史を診断する」 医者の書いた本がしばらく続く予定である。今回は神経内科医。 著者の小長谷正明氏の医学論文は、私でさえいくつかは存じ上げていたのだが、著者みずから、あとがきで「今回はさまざまな考え…

『草の根の軍国主義』佐藤忠男(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 敗戦時14歳の少年兵だった著者、佐藤忠男は、戦後映画評論家になった。著者が、アジアの映画、…

『公と私の系譜学』レイモンド・ゴイス(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「公とは何か」 公的なものと私的なものの境界が時代とともに変動していることは、アレントの『人間の条件』などでも指摘されてきたが、この書物はギリシア、ローマ、中世、現代における公的なものと私的なものの領域を、具体例で考えよ…

『ピーターラビット全おはなし集 愛蔵版 改訂版』 著:ビアトリクス・ポター, 翻訳:石井桃子・間崎ルリ子・中川李枝子 (福音館書店)

→紀伊國屋書店で購入 ビアトリクスが用意したもう一つの「場所」 子どものころから今にいたるまで、ピーターラビットにそれほどなじみはない。赤いにんじんみたいなものをおいしそうに食べていたピーターとか、カエルの絵は好きだったけれど「○○どん」と呼ぶ…

『人造美女は可能か?』巽孝之、荻野アンナ[編](慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 オタク死んでも、やっぱマラルメは残るぞかし いってみれば機械マニエリスムが16世紀に始まったことを教えてくれる最近刊に次々と啓発された後、その20世紀末~21世紀初頭における再発を一挙総覧できるのも、有難いし、面白い。それが慶…

『二十世紀の法思想』中山竜一(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「法と哲学の結びつき」 二〇世紀の基本的な法学の流れを追った書物だが、法哲学というよりも、法的な思考の枠組みが、哲学に大きな影響をうけていることが実感できる。著者とともに「どんな法解釈も何らかの哲学と結びつくものであらね…

『レバレッジ時間術』本田直之(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「時間を使いこなすプロになるために」 時間の使い方が下手である、と実感したのは、起業家といわれる人たちと話をするようになってからである。それも、短期間で成果を出そうとしている人である。 忙しそうにみえるが、仕事が速い。そ…

『鯉浄土』村田喜代子著(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「鯉コクを食べに行きたくなる小説(ウソです)」 鯉コクという料理がこんなにすさまじいものだとは思わなかった。この短篇集の表題作「鯉浄土」によれば、生きた鯉を「攻める」(っていう言葉を使うのだそうですが)場合、鯉を目隠しし…

『悪童日記』アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「心的外傷と創作という治癒の道程」 『悪童日記』を初めて読んだ時の新鮮なざわめきは、15年以上たった今も変わりない。その間にも、諸外国でベストセラーとなったこの作品は、三部作をなすほかの二作とともに文庫化されて、日本でもそ…

『愉悦の蒐集-ヴンダーカンマーの謎』小宮正安(集英社新書ヴィジュアル版)

→紀伊國屋書店で購入 ヴンダーカンマーを観光案内してくれる世代が出てきた 16世紀という不思議な時代の「手」と機械――職人たちのマニエリスム――というテーマで取り組んだ本が、少し見方を変えると期せずして一シリーズとして出てきた動きにつき合ってきたが…

『湖の南』富岡多恵子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 2000年の大晦日、例年はお盆の明け八月十六日に行われる五山の送り火が、ミレニアム記念のイベントとして灯された。 この日、それをみたのかみなかったのか。ただ、お盆でもないのに、ご先祖様の魂をお見送りするための火を、キリスト教…

『山の民』(上)(下)』江馬修著(春秋社)

→山の民〈上〉を購入 →山の民〈下〉を購入 「ホヤの物語」 江戸時代、飛騨高山あたりの貧しい山の民は、飢饉の年がやってくると、ホヤを食べて飢えをしのいだのだそうだ。ホヤとは、三陸あたりで取れる、独特の臭気のあるあのオレンジ色をした腔腸動物のこと…

『中世都市論』網野善彦著作集(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中世都市の自律性」 やがて『無縁・公界・楽』の考察につながる網野の中世都市論の集成だが、日本の戦後の歴史学の全体を展望するにも役立つ一冊である。網野は中世都市論について、戦後の歴史学界に主として二つの潮流があったことを…