書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『マキァヴェッリの生涯』ロベルト・リドルフィ(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「マキアヴェッリ読解の参考に」 マキアヴェッリの同時代にフィレンツェで活躍していて、マキアヴェッリとも仲のよい名門貴族だったリドルフィ家の末裔が、愛情をこめて著した詳細な伝記である。ときに歴史家の枠組みを越えて、当時の教…

『近代文学の終り』柄谷行人(インスクリプト)

→紀伊國屋書店で購入 「柄谷ファンクラブをめぐって」 せっかく柄谷行人のものをとりあげるなら『探究I』とか『探究II』とか『トランスクリティーク』とか、あるいは『日本近代文学の起源』など、堂々とそびえ立つ記念碑的な作品から選ぶべきなのかもしれな…

『都市空間の地理学』加藤政洋/大城直樹編著(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「現代の都市を読み解く」 本書は都市の地理学、とくに都市の空間についての地理学の入門書であり、さまざまな理論がわかりやすく説明されている。最初の部分では、都市の同心円的な発展という古典的な理論を提示したシカゴ学派の都市の…

『こぐまくん、ないしょだよ』ふくだじゅんこ ぶん え(大日本図書)

→紀伊國屋書店で購入 「「ないしょ」のリリース」 ないしょだよ って約束させられちゃったこぐまくん。 でも、へとへとになるくらい、 「ないしょ」って重い。 「ないしょ」の手放し方はむずかしいよね。 大人になった今だって、慣れてないんだから こどもた…

『精神の自由ということ―― 神なき時代の哲学』アンドレ・コント= スポンヴィル著/小須田 健、コリーヌ・カンタン訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「信じる人にも、信じない人にも」 玄侑宗久(作家・福聚寺住職) この本のタイトルを見れば、たいていの禅僧は振り向くだろう。「精神の自由」とは、禅の中心テーマでもあるからだ。そして本を手にとって目次を見ると、簡潔な章立てだ…

『経済学の再生―道徳哲学への回帰』セン,アマルティア(麗沢大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「資本主義と倫理」 この書物でセンが語るのは、きわめて明確で簡略なことである。経済学には、アリストテレス以来の「善き生」を求める倫理的な伝統と、インドのカウティリヤの『実利論』以来の「工学的な」問題処理に専念する伝統があ…

『戦後日本スタディーズ〈3〉8 0・9 0 年代』岩崎稔、上野千鶴子、北田暁大、小森陽一、成田龍一編著(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「自分史と重ねて読む『戦後日本スタディーズ』」 雨宮処凛(詩人) 一九七五年生まれの私にとって、八〇年代の記憶はあやふやだ。 自分の体験としては、校内暴力が下火になった頃に蔓延し始めたいじめのターゲットとなったこと、強制的…

『自己評価メソッド――自分とうまくつきあうための心理学』クリストフ・アンドレ著/高野優訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「我々の問題としての「自己評価」」 中村うさぎ(作家) フランスで十数万部も売れたベストセラーとは、いかなる本であろうか? 翻訳タイトルは『自己評価メソッド』……そうか、「自己評価」か。それならば、現代日本人の抱える問題と無…

『アウトサイダー・アートの世界――東と西のアール・ブリュット』はたよしこ編著(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「感性と知性のボーダレス」 港千尋(写真家・多摩美術大学教授) ブリュットというフランス語は、ふつう「自然のままの」「もとのままの」を意味する。たとえば原石、原油や粗糖など、原材料を指すいっぽう、総量、粗利益や総生産など…

『自分の体で実験したい――命がけの科学者列伝』L.デンディ& M.ボーリング著/梶山あゆみ訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「寄生虫学者は「変人」か」 藤田紘一郎(感染免疫学者) 『自分の体で実験したい』は、危険も顧みず、科学のために自分の体で実験した科学者や医学者たちのノンフィクションである。本書の「おわりに」と巻末の年表では、私自身のサナ…

『ナマコを歩く-現場から考える生物多様性と文化多様性』赤嶺淳(新泉社)

→紀伊國屋書店で購入 今年10月に名古屋で、生物多様性条約第10回締約国会議が開催される。「ラムサール条約やワシントン条約などの特定の地域、種の保全の取組みだけでは生物多様性の保全を図ることができないとの認識から、新たな包括的な枠組みとして提案…

『貨幣の哲学』エマニュエル・レヴィナス(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「貨幣の正義」 マルクスからは「マンモンの神」と呼ばれて嫌われた貨幣であるが、これが物物交換の不便さを解消する文明の工夫の一つであることは間違いない。しかしレヴィナスが指摘するように、貨幣の経済学や社会学は多いとしても、…

『空と海』アラン・コルバン(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 「空と海をめぐる感性の変化の歴史」 ちょっと見にはバシュラールの著書のようだが、精神分析ではなく、感性の歴史である。『においの歴史』と『浜辺の誕生』の著書のあるアラン・コルバンのお手のものだろう。とくに「海」に関しては、…

『アトラクションの日常 ― 踊る機械と身体』長谷川一(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「どこにもたどりつきたくない本」 目的地のない旅に憧れる人は多い。気ままで自由でこだわりのない、当て処のない彷徨に身を任せることができたらどんなに気持ちいいか。しかし、実践するのは意外と難しい。お金や時間の問題ではない。…

『新版 現代政治理論』キムリッカ,W.(日本経済評論社)

→紀伊國屋書店で購入 「アメリカの政治理論のよくできた見取り図」 この書物は『現代政治理論』と題されてはいるが、あまり正確ではないかもしれない。あくまでも英米の、というよりもアメリカの政治理論の分析と考察なのである。フランスの政治理論もドイツ…

『聖なる家族-ムハンマド一族』森本一夫(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書の目標とからめて著者、森本一夫は、つぎのように読者に問いかけている。「信徒の平等を標榜する宗教であると聞くイスラームに、どうやら特別な宗教的意味をもつ一族が存在するらしいことに興味を惹かれはしないだろうか。もし答え…