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『アスペルガー症候群』岡田尊司(幻冬舎新書)

アスペルガー症候群

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アスペルガー症候群は天才予備軍」

 ある時、試験問題を作っていると、学校のスクールカウンセラーからメールが届いたことがあった。ある生徒の試験問題について、白い紙ではなく黄色い紙に問題をプリントして欲しいというものだった。白い紙に黒字で印刷されたものは集中できないが、黄色い紙だと大丈夫だというのである。私の生徒ではないが、これは初耳だったので尋ねてみると、アスペルガー症候群の一つの特徴らしい。自閉症とも違うようだ。

 そこで、岡田尊司の『アスペルガー症候群』を読んでみた。言葉は聞いたことはあっても、明確な知識はなかったが、驚く事が多かった。この症状の特徴を持っている人物が、ビル・ゲイツジョージ・ルーカス、ウィンストン・チャーチル等だと示されると、これは天才症候群なのかと疑いたくなってしまう。アインシュタインヒトラーの名前を挙げる人もいるようだ。実際自閉症との大きな違いは「言語と智能の発達に遅れがないこと」だという。

 ではどういう特色があるかというと、コミュニケーションが苦手、狭い領域に深い興味を持つ、人間より物に関心を持つ、運動が苦手、抜群の記憶力、繊細な感覚、ルールを好む等がある。これらの特色のいくつかがあてはまる人間などいくらでもいそうである。岡田は現在の診断基準や考えられる原因をきちんと示しているが、それは専門家に任せるとして、興味深いのは有病率の急増である。もちろんこの障害の認識が進んだ事もあるだろうが、「それを差し引いても、有病率が増加している」のである。

 多くの実例が紹介されているが、ドイツで発見されたカスパー・ハウザーという青年の例は興味深い。「幼い頃から塔に幽閉され、食べ物だけを与えられて育った」のだが、元々智能に恵まれていたため、後に高等知識も身につけることができた。しかし、彼がどうしてもできなかったことがある。それは「その場の空気を読んだり、相手の気持ちを推し量ったり、ユーモアを解すること」だった。

 これはアスペルガー症候群の特徴と見事に一致する。ここから判断して岡田は「どんな子どもも、人と滅多に顔を合わさず、表情のないロボットや画面に囲まれて育てば、間違いなくアスペルガー症候群になるだろう。」と結論付ける。テレビ、パソコン、携帯電話等、現代の日常生活は画面だらけである。さらに、マニュアル通りの言葉しか話さないロボットのような店員たち。有病率が増加するのは当然と言える。

 我々はこのような状況にどう対応していけば良いのだろう。ヒントは「アスペルガー症候群の遺伝形質は、強く集中しすぎると障害となるが、ほどよくあると、むしろ非常に強みを発揮する才能や特性となる」ことだろう。子供ならば、その子の才能や特質を良く見て、良い点を褒めながらゆるやかに方向を示してやることができる。大人の場合は、日本型会社人事を考え直す事だろう。一般の会社では、不公平をなくすために種々の配置転換が行われるが、これはアスペルガー症候群の才能を潰してしまう。適切な部署で一つの仕事に長く取り組んでこそ、他者の追随を許さない才能を発揮する可能性があるからだ。

 近年、友人知人等に鬱病を発症する人が増えている。これもやはり日本型会社人事や仕事の特色が原因の事が多い。経済的には素晴らしい先進国でありながらも、国民の幸福度が低い日本。原発も含め多くの事を考え直さなくてはいけないこの時期に、一読の価値がある一冊と言える。


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