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『数学ガール ガロア理論』 結城浩 (ソフトバンククリエイティブ)

数学ガール ガロア理論

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 わかりやすいといわれているガロア理論の解説本をもう一冊読んでみた。ライトノベル風の物語にしたてた数学書として非常に人気のある『数学ガール』の五冊目である。

 このシリーズは高校生の「僕」と、同じ高校にかよう秀才のミルカさん、一年下のテトラちゃん、そして「僕」の従妹で中学生のユーリの四人組が楽しくおしゃべりしながら数学を学んでいくという趣向で、今回は数学好きの集まる双倉図書館で「ガロア・フェスティバル」が開かれることになり、四人組も群論にチャレンジする。

 第1章から第9章までが準備段階で、ガロア理論に必要な群論や体、線型空間、剰余類などの武器を入手し、経験値を高めていく。そして最後の第10章でいよいよガロアの「第一論文」の攻略にとりかかる(科学アカデミーに三度目に提出した論文だが、遺書に書かれた三本の論文の構想では一本目にあたるので「第一論文」と呼ばれることが多い)。

 本欄にとりあげた以外でも群論の入門書を何冊か覗いたが、ほとんどの本があみだくじを例にあげている。本書もあみだくじから説明をはじめているが、あみだくじのイラストがわかりやすいし、縦三本のあみだくじを《すとん》、《ぐるりん》、《どんでん》に分類するのもアイデアである。《すとん》、《ぐるりん》、《どんでん》は後々何度も出てくるので、直感的にわかった方がいいのだ。

 巡回群から複素平面、正n角形、共役複素数、作図を例にした代数と幾何学の関係へと話題を進める順序は実に自然で、この流れで線型空間の概念がすらすらとわかる。

 ラグランジュの分解式は本書では「ラグランジュ・リゾルベント」という名前で登場する。二次方程式を復習問題にまわし、規則性が見えやすい三次方程式からはじめたのはよかったし、三つの解を《すとん》、《ぐるりん》、《どんでん》で置換すると共役複素数になるというのもわかったが、最小分解体のところで理解に自信がなくなった。こういう初歩的なところで足踏みしてしまうのだから、年はとりたくないものだ。

 それでも二次方程式の解が、有理数体に判別式の √b^2-4ac を添加した体の中にあるのはわかり、これだけでも世界が広がった感じがした。

 塔の理論から作図可能性に進む条はわくわくしてきた。この辺りが数学の醍醐味なのだろうか。

 剰余群の部分はガロア理論理解の鍵になるらしいが、ここも難物だ。時間を置いてから読み直してみようと思う。

 さてアイテムが一通りそろったところで、いよいよガロア理論である。

 物語の上ではフェスティバルの前日、四人組が準備のために残っていると電車が不通になってしまい、図書館に泊まることになる。翌朝、開場前の展示室を歩きながら、ディスプレイされた第一論文の文言をもとに四人が議論しあうという設定になっている。

 体の塔と群の塔が対応しあうことをガロア対応と呼び、補助方程式の根を添加していくと体は拡大して行き、一方群は縮小していく関係にあるそうだ。このあたり、わたしにはもうお手上げである。

 もともと難しい上に、あてられた紙幅が多くないので早足になっているような気がする。若い人ならすらすらわかるのだろうが、わたしの老化した脳ではついていけなかった。

 ガロア理論がわかったとはいえないが、レヴィ=ストロースを読むのに必要な群の知識は十分知ることができたような気がする。本書が群論の入門書としてすぐれていることは間違いないだろう。

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