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『貧者の領域――誰が排除されているのか』西澤晃彦(河出書房新社)

貧者の領域――誰が排除されているのか

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河出ブックス、2月上旬発売のタイトルをご紹介しています。


2点目は、西澤晃彦さんの『貧者の領域――誰が排除されているのか』です。

西澤さんは、東洋大学教授(都市社会学、階級・階層構造論)。ここ数年で、ようやく「貧困」が社会問題として扱われるようになった観がありますが、まったくと言ってよいほど論じられていなかった時期からこの問題に取り組まれてきました。今回の本は、その集大成的な一冊。政権が代わり、年が改まっても、一向に出口が見えない今こそ、多くの人に手にとっていただきたいものです。

西澤さんから読者のみなさんへのメッセージです。

「実に単純な排除の原理が参照されつつ、近代以降の日本社会においては誰が貧者になるのかが決められてきたし決められている。そういう話と、貧者となった人々がそれをどう引き受けどう生きているのか、そういうことを、特に野宿者に焦点をあてて書きました。

読んでいただければ分かると思うのですが、野宿者は特異な例なのではなく、現代において貧困という条件を生きる存在を明瞭に照らし出す「代表例」ともいうべき人々なのです。「特別」な人々についてではなく、近現代社会論としてこの本を書いたつもりでいます。」

目次は以下のとおりです。

まえがき

Ⅰ章 排除による貧困

Ⅱ章 檻のない牢獄――野宿者の社会的世界

Ⅲ章 「非国民的なもの」の排除――東京の都市下層

Ⅳ章 「都市的なもの」と「社会的なもの」

Ⅴ章 「社会」の再構築へ

あとがき

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そして、西澤晃彦の「この〈選書〉がすごい!」

学生時代に、人が群れる(=ムラをつくる)ことの意味を教わった守田志郎『日本の村――小さい部落』(農村漁村文化協会、人間選書、2003年)と近代をたやすくこえられない近代人である私に近代の見取り図を示してくれた桜井哲夫『近代の意味――制度としての学校・工場』NHKブックス)には、今でも恩義を感じています。

選書ではありませんが、講談社ブルーバックスでかつて出ていた『日本昆虫記』(ブルーバックス版は1967年発行)の第1巻「ハチの生活」を紹介しておきたいと思います。特に冒頭の山本大二郎「青色のハチ ルリジガバチの生活」は、戦前・戦中の重い空気の中で淡々と積み重ねられていくルリジガバチの観察の記録がすばらしく、観察記録の古びなさとともに観察するということが人にとっていかなる意味をもつのかを考えさせられてしまいます。

私見では、現在の新書は、かつての月刊雑誌の代替品でありそれゆえ賞味期限も短くならざるを得ないと思います。選書に新書よりももう少しだけ長い賞味期限が求められているとするならば、対象が虫であれ人であれ、観察の記録性によって時間をこえていくという方法が模索される場にもしてほしいなと勝手に期待しています。

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なお、2月の河出ブックスには、もう1点、片木篤さんの『オリンピック・シティ 東京1940・1964』があります。

片木さんは、名古屋大学大学院教授(建築設計・意匠)。今回の本では、幻に終わった第12回(1940年)と、戦後復興を世界に知らしめた第18回(1964年)の2回のオリンピックで東京はいかに変容したのかを、都市・建築の視点から読み解いていきます。

こちらもぜひご期待ください。


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