書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

第13位『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) 世間から見向きもされない透明な存在だった冬子は、自分が孤独であることを引き受けることによって、確固たる一個人の尊厳を手に入れた。たとえ暗闇の中にも光はある。それは、孤独な自分に気づくことでようやく見…

第14位『暇と退屈の倫理学』國分功一郎

→紀伊國屋書店で購入 (朝日出版社/1,890円) 「人生は死ぬまでの暇つぶし」という言葉があるけれど、そもそも“暇と退屈”がなければ読書の時間だってありえない。あまりにありふれているのに誰もが逃れられない“暇と退屈”論。でも読みすすめるとタイトルに…

第15位『これはペンです』円城塔

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,470円) 叔父は文字だ文字通り。叔父から届く手紙、それは文章自動生成装置で書かれていたり、DNAや磁石なんかで書かれていたりで、これを読み解こうとする姪は中華鍋を焦がす程炒めてみたり、公安部から呼び出しを喰ら…

第16位『私のいない高校』青木淳悟

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) わからない。小説なのかわからない。誰が語っているのかわからない。色々わからない。でも、わからないことが楽しい。なにより、こんな小説が生まれてしまったことが楽しい。―――青木さんは、日本文学界における突然…

第17位『ソーラー』イアン・マキューアン

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/2,415円) 世の中に氾濫している能天気な「エコ」という文字が全部「エゴ」と書かれているように見えてきた。地球温暖化問題をめぐる様々な取組みは人類の叡智の結集!…ではなくて、まさかまさかの総勢70億人による茶番劇だ…

第18位『和子の部屋―小説家のための人生相談』阿部和重

→紀伊國屋書店で購入 (朝日新聞出版/1,785円) ワタクシ事ですが、インターネットでよく見かける「いいね!」というボタンがどうしても押せません。なぜなら「いいねえ…」と思ったり、「いいわあ!」と感じていたりするからです。何が違うのかって? いや…

第19位『ミステリウム』エリック・マコーマック

→紀伊國屋書店で購入 (国書刊行会/2,520円) ミステリ好きだったら、一度マコーマックを読んで頭の中のミステリの概念をひっくり返されたらいいと思います。いや、ホンマに。きれいに解けた謎をもう一回きれいにひっくり返す、人を小バカにしたマコーマッ…

第20位『円卓』西加奈子

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,299円) 西さんを育んできた愛情、西さんが育んできた愛情。そういうものが全部詰め込まれたこの作品には、夕餉のお味噌汁のような安心感がある。「3月11日」という日があって、誰もが一番に探し求めたもの、一番に見つけ…

第21位『たとへば君―四十年の恋歌』河野裕子・永田和宏

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,470円) たった31文字が伝えようとする思いはあまりにも深い。彼女は絶筆となった歌にどれほどの想いをこめたのか。呼吸するように、けれど己を見つめてみつめて紡がれるがゆえに、歌が私たちの心をとらえるのは当たり前…

第22位『未来ちゃん』川島小鳥

→紀伊國屋書店で購入 (ナナロク社/2,100円) 未来ちゃん、ブルータスの表紙をひと目見た瞬間からメロメロです。キュートなだけじゃなく、大人をドキッとさせるその瞳はズルイ。未来に期待いっぱいの未来ちゃんに連られて自分の未来も明るくなりそうな予感……

第23位『ワーカーズ・ダイジェスト』津村記久子

→紀伊國屋書店で購入 (集英社/1,260円) 理不尽な仕打ちにじっと耐え、腑に落ちない命令にも黙々と従い、合わない同僚とも極力波風立てずに。しんどいけれど、働くってそういうこと。おしごと男女あるある満載。みんな頑張ってんだよな、と思えば、明日も…

第24位『大人の流儀』伊集院静

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/979円) 一般的な常識マニュアルにあらず、大人の男の本音が烈しく突き刺さる。「大人の流儀」、いや、伊集院静の流儀がここにある。大胆かつ潔い人生哲学。スポーツ、酒、ギャンブル… 「遊びだからこそ、いい加減にしない!…

第25位『紙の民』サルバドール・プラセンシア

→紀伊國屋書店で購入 (白水社/3,570円) 「土星が俺たちを監視してる」「土星と戦争する」 何だそれ! 突っ込んだ時にはもう負けてます。引き込まれてます。SFなのか、SFという枠にすらはまらないのか、怪物新人出現!! 〔泉北店・川村学〕 →紀伊國屋…

第26位『かんさい絵ことば辞典』ニシワキタダシ

→紀伊國屋書店で購入 (ピエ・ブックス/997円) ほんまにこの本はうまいこと出来てます。ありえないシチュエーションの中で個性豊かなキャラクターが関西弁を巧みに使い、一瞬で笑いを取る… 笑いを愛する関西の醍醐味がきゅっと凝縮されてます。また、話が…

第27位『銀の匙①』荒川弘

→紀伊國屋書店で購入 (小学館/439円) 北海道出身で、あの『鋼の錬金術師』の著者がおくる農業高校を舞台とした青春学園漫画。だがしかし、ただの「青春学園」とは訳が違う。「農業」という過酷な職業がコミカルにまたはシリアスに描かれている。これは、…

第28位『コケはともだち』藤井久子

→紀伊國屋書店で購入 (リトルモア/1,575円) 私は苔になりたい。そう思える程、これまでの苔のイメージをくつがえす、素敵なコケの性質がかわいらしい挿絵つきで解説された一冊です。生息する場所を選ばず、どこででも生きられるが、他生物に迷惑をかける…

第29位『でんせつのきょだいあんまんをはこべ』サトシン・作/よしながこうたく・絵

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,470円) 巨大プロジェクトに挑む熱い男アリたちの物語! 脳内BGMはモチロン「地上の星」で。行間のさまざまな苦労を思うと、涙が止まりません。 〔流山おおたかの森店・小田山桂子〕 →紀伊國屋書店で購入

第30位『イスラームから見た「世界史」』タミム・アンサーリー

→紀伊國屋書店で購入 (紀伊國屋書店/3,570円) 作者曰く、世界史とは「私たち」が「現在の状況」にどのようにして行き着いたかを知るためのもの。そしてこの「私たち」と「現在の状況」は様々なカタチがある。そう、西洋や東洋からみた世界史は無数にある…

『自己愛過剰社会』ジーン・M・トウェンギ、W・キース・キャンベル(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「現代の自己愛とは何か」 本書は、アメリカの心理学者トウェンギとキャンベルによって2009年に出版されたThe Narcissism Epidemicの邦訳である。直訳すると「ナルシシズムの蔓延」とでもなるのだろうが、訳者は本文で「ナルシシズム流…

『Coraline』Neil Gaiman(Harpercollins Childrens Books)

→紀伊國屋書店で購入 「扉の向こうの不気味な世界」 僕は、日本の高校を卒業してすぐにアメリカに住み出した。初めは兄とふたり暮らしをしたのだが、問題は部屋探しだった。ニューヨーク州ロングアイランドの小さな町で部屋を見つけようとしたのだが、その時…

『潜水調査船が観た深海生物 — 深海生物研究の現在』藤倉克則/奥谷喬司 (東海大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 私事で恐縮ですが、このたび、新刊を出しました。「海に降る」(朱野帰子/幻冬舎)。女性初の有人調査潜水船パイロットを目指す主人公が海に棲む未確認巨大生物を探しに行く、という深海冒険小説です。物語の舞台は国内随一の海洋研究…

『『印刷雑誌』とその時代―実況・印刷の近現代史』中原雄太郎ほか(印刷学会出版部)

→紀伊國屋書店で購入 「ニセ札の作り方、教えます」 最近必要に迫られて古本ばかり読んでいるから、新本はほとんど読めていない。なので、むかし私が編集した、今でも新本で買える本について書いてみる。 『印刷雑誌』という名前の雑誌がある。「デジタル雑…

『就職とは何か-<まともな働き方>の条件』森岡孝二(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 わたしが常々学生に言っていることのひとつに、「目先のことにとらわれず、ひとつ、ふたつ大きな視野でみて、目標をたてること」がある。すこしでも大きな目標設定をすれば、目先のことはたんなる通過点で、とるに足らないものにみえて…

『猛烈に!アロハ萌え―HAWAII IN HAWAII』橋口いくよ(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 親戚や知り合いからの土産物「マカデミアナッツチョコレート」でしかハワイというものに接触したことのない私がなぜこの本を手に取ったのかといえば、年末の寒空の下、サマードレスやビキニの水着、スパムの缶、その他なにやらわからな…

『パミラ、あるいは淑徳の報い』サミュエル・リチャードソン著、原田範行訳(研究社)

→紀伊國屋書店で購入 「パミラはいったい何をしたのか?」 ついに『パミラ』の翻訳が出た。1740年版の初版テクストを元にしたものは本邦初訳。記念すべき出来事である。パミラはおそらく英文学史上もっとも有名な人物のひとりだが、考えてみるとその実像は意…

『ブラック・ジャック創作(秘)話 〜手塚治虫の仕事場から〜』原作・宮崎克 漫画・吉本浩二(秋田書店)

→紀伊國屋書店で購入 かつて七日間で世界を灼きつくしたと伝えられる巨神兵のように、莫大なエネルギーを以て創作に打ち込む天才。誰もついていけない、いや、一緒にいるだけでうっかり一緒に灼かれてしまいそうな危険な存在。そんな人を私はモンスターと呼…

『乱歩・白昼夢/浮世の奈落』斎藤憐(而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(59)」 音楽劇『上海バンスキング』で知られる劇作家・演出家の斎藤憐さんが、2011年10月12日、食道腫瘍による肺炎で亡くなった。享年70歳だった。 本書は死後、最初に出された戯曲集である。この…

『愛国心―国家・国民・教育をめぐって』市川昭午(学術出版会 日本図書センター〔発売〕 )

→紀伊國屋書店で購入 「「愛国心」をめぐる議論の網羅的な整理」 本書は、教育学の碩学により、「愛国心」をめぐる社会理論、現実政治の動向、および教育を中心としたその制度の来歴など、極めて広範な論点を網羅しつつ書かれた大部の著作である。とりわけ、…