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『ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)(下)』(岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉
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ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉
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 大学院生の頃、この本をくり返し読んだ。10回は読んだのではないか。私が当時読んだのは英語の原書だったけど、この大貫さんの訳はとても良く出来ている。

 ファインマンのいたカリフォルニア工科大学は学部学生が一学年に200人しかいない小さな大学だが、ノーベル賞学者をこれまでに30人も出している。とてつもなくアタマの良い人たちの集まっているところなのだが、その中でもファインマンは格別にアタマが良かった。

 アタマが良いと言っても、シリアスな顔をしてもっともらしいことをする、というような賢さではない。はちゃめちゃなアタマの良さなのだ。もともと、物理学はこの世界の秩序のもっとも奥深くにある秘密を引き出す学問である。並大抵のアタマの良さではできない。人は、アタマの良さを突き詰めていくと、突然無重力の明るさに達するのだ。映画『アマデウス』のモーツァルトのことを考えれば判るでしょ。

 とにかくこの本を手にとって読んでほしい。「文系」も「理系」も関係ない。一つ一つのエピソードがあまりにも面白すぎて、絶対に他人に話したくなるはずである。女の子にもてる方法とか、精神科医との面接とか、リオのカーニバルでサンバをやる話とか、ノーベル賞をもらった後の講演会のこととか。「この人は何でこんな変なことをやるんだろう」とビックリしながら、そこにちゃんとロジックが通っていることにまた感動する。

 世の中には、いくら時代が流れても必ず読み継がれていく本というものがある。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』はすでに古典だ。これを読まずして、世界の面白さが判ったなどと思わないで欲しい。中途半端なアタマの良さや、面白さに騙されないためにも、このとびっきりの名作を一刻も早く読むべきである! 

 そんなことを書いていたら、私ももう一度読み返したくなってきてしまった。まさにファインマン禁断症状である。

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