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プロの読み手による書評ブログ

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ライオンブックス(5)』 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 講談社全集版では「ライオンブックス」シリーズ第五巻として収録されているが、中味は1971年に「少年ジャンプ」に連載された『百物語』である。 手塚治虫はゲーテの『ファウスト』を三度漫画化したが、『百物語』は二度目にあたる。舞台…

『Julius Winsome』Gerard Donovan(Faber)

→紀伊國屋書店で購入 「ゼリー状の夢をぷちっと破って」 この語り手、少し変ではないか? と思わせる小説は日本語でもよくある。へらへらと饒舌だったり、京都弁だったり、怒りっぽかったり、子供っぽかったり。「変な語り手」を設置することで、読む側から…

『ファウスト』 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 ゲーテの『ファウスト』の漫画化で、1950年に書下ろし作品として発表された。大人の読む文学作品を漫画にした例はそれまでなく、後の世界名作漫画ブームの先駆けとなったといわれている。 手塚治虫は『ファウスト』を三回漫画化している…

『St. Lucy’s Home for Girls Raised by Wolves』Karen Russell(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「アメリカ・コンテポラリー文学の流れのなかの一冊」 この本はアメリカ文学界に登場した新鋭作家カレン・ラッセルのデビュー短編集。彼女は『ニューヨーカー』誌の「25歳以下の注目すべき25人」のひとりに選ばれ一躍注目を浴びるよ…

『罪と罰』 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 手塚治虫は1952年に医師免許を取得してから大阪から東京に居を移し、プロの漫画家として八面六臂の活動をはじめるが、ちょうどその頃、書下ろし作品として執筆したのが本作である。 ドストエフスキーの漫画化だが、同じ原作ものにてして…

『雑巾と宝石』 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 先日、名画座で「襤褸と宝石」という1936年のハリウッド映画を見た。自尊心に振りまわされる男女をコミカルに描いた痛快なコメディで、すっかりファンになってしまった。 書店の手塚治虫コーナーを物色していると、どこかで見たようなタ…

『鉄の旋律』 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 表題作の中編と短編二編を収録した作品集である。 まず、「鉄の旋律」。「増刊ヤングコミック」に1974年6月から半年にわたって連載されたどろどろの復讐譚である。米原秀幸によって『Dämons』としてリメイクされていることで知られてい…

『戦後日本スタディーズ① 「40・50」年代』岩崎稔,上野千鶴子,北田暁大,小森陽一,成田龍一編著(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「村上春樹『1Q84』と『戦後日本スタディーズ』」 小森陽一(東京大学教授=共編著者) 日本における二〇〇九年上半期を、歴史化して記述する時が来たなら、二巻本の村上春樹『1Q84』(新潮社)が空前のベストセラーになったこ…

『奇子』1-3 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 奇子と書いてアヤコと読む。アヤカシのアヤだろう。 「ビッグコミック」に1972年1月から1年半にわたって連載された長編で、最初の構想では『カラマーゾフの兄弟』のような大河漫画になるはずだ…

『空気の底』 手塚治虫 (秋田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「プレイコミック」に1968年から1970年にかけて読みきり連載の形で発表した短編を一冊にまとめたものである。『地球を呑む』と同時期の製作で、この後に『人間昆虫記』がつづく。 大都社版、講談社全集版、秋田書店版の三種類があるが、…

『人間昆虫記』 手塚治虫 (秋田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「プレイコミック」に1970年から翌年にかけて連載された長編漫画である。講談社版全集では上巻・下巻にわかれているが、ハードカバーで一冊本の秋田書店版「手塚治虫・傑作選集」で読んだ。値段は講談社版とほぼ同じだが、造本がしっか…

『新編 日本のフェミニズム1 リブとフェミニズム』上野千鶴子解説(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 学生のとき、市川房枝参議院議員を議員会館に訪ねたことがある。当時は、「わたしつくる人、ボク食べる人」というハウス食品のインスタントラーメンのテレビコマーシャルが、「従来の男女の役割をますます強固にする働き」をするとして…

『地球を呑む』1&2 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 今年は手塚治虫の生誕80周年にあたり、江戸東京博物館で「手塚治虫展」があったり、「鉄腕アトム」がハリウッドで「ATOM」としてリメイクされたり、新しい文庫全集の刊行がはじまったりとにぎやかである。 「手塚治…

『夏みかん酔つぱしいまさら純潔など 句集「春雷」「指輪』鈴木しづ子(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 ある女性俳人の遺したふたつの句集が一冊となった。 「春雷」より 畦(くろ)ゆくやマスクのほほに夜のあめ 霜の葉やふところに秘む熱の指 うすら日の字がほつてある冬の幹 冬雨やうらなふことを好むさが 昃(かげ)る梅まろき手鏡ふと…

『技術への問い』M.ハイデッガー(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「テクノロジーの本質を問う」 この書評欄で取り上げるのは専門分野にあまり近くない書籍のほうがよさそうだと思っていたが、さっそく第二回から、自分の仕事に直近の新刊を紹介することになった。これはもう声を大にして言い立てるしか…

『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」 』高瀬毅 (平凡社 )

→紀伊國屋書店で購入 「消えたことで残された、記憶をつなぐ鎖」 1955年に長崎で生まれた著者・高瀬毅さんが、母親の実家を訪ねる時に乗ったバスから見ていつも感じていた「静かな気持ちのいい場所」。まぶしい光に包まれた坂道の途中にあった大きな建物は浦…

「河出ブックス」 いよいよ発売です!

ちょうど1ヶ月前からご紹介してきた「河出ブックス」、いよいよ発売となりました! 改めまして、創刊の6点は以下のとおりです。 ●石原千秋『読者はどこにいるのか――書物の中の私たち』 ●島田裕巳『教養としての日本宗教事件史』 ●橋本健二『「格差」の戦後史…

『父と子の思想』小林敏明(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(48)」 この本は小品であるが、実に射程の広い、深い思考をもった書物である。 著者は現在、ドイツのライプチッヒに住み、哲学や思想を論じるアカデミシャンだ。そのバックグランドには西田哲学や広松渉の政…

『沖縄01外人住宅』岡本尚文(ライフ・ゴーズ・オンinc.)

→紀伊國屋書店で購入 沖縄に花開いたコンクリート文化 はじめて沖縄に行ったときに驚いたのは、目にする住宅のひどく武骨なことだった。コンクリートの塊と呼びたくなるような、飾り気のない四角い建物が多かった。 壁が湿気で黒ずんでいたり、どぎつい色の…

開催迫る! 「河出ブックス」創刊記念トークセッション

「河出ブックス」の創刊まで、あと1週間を切りました。 再びのご案内になりますが、創刊直後の今月15日、下記の通り、創刊記念トークセッションを開催いたします。 すでにご紹介した創刊ラインナップに入っていただいた、石原千秋さん、島田裕巳さん、そして…

『The Great Influenza: The Story of the Deadliest Pandemic in History』John M. Barry(Penguin Books)

→紀伊國屋書店で購入 「世界を襲ったインフルエンザ大流行の歴史」 1918年春。アメリカのカンザス州にあった軍隊のキャンプでインフエンザが流行し始めた。 アメリカは第一次世界大戦を戦っているさなかで、軍隊のキャンプは人員過剰の状態。その冬は寒…

『父を葬る』髙山文彦(幻戯書房)

→紀伊國屋書店で購入 「父と接吻する男」 九州にはやはり何かある――たとえ錯覚にしても、そんなふうに感じさせる小説である。 九州の中でも宮崎は「陸の孤島」。福岡からでも飛行機を使う。小説の舞台となる高千穂はその遥か奥地にある。熊本との県境近く、…

『Global Linguistics : An Introduction』Marcel Danesi & Andrea Rocci(Mouton de Gruyter)

→紀伊國屋書店で購入 「英語を通じて異文化に触れる―日本にこそ「グローバル言語学」を」 言語や文学の世界は、「英語青年」「月刊言語」休刊に象徴されるような冬の時代を迎えている。しかし、わたしたちが「ことば」を用いて日々生きている以上、その探究…