書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『精神医学から臨床哲学へ』木村敏(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「あの木村敏の自伝です」 なるほど頭とはこういうふうに使うものなのか、文章とはこういうふうに書くものかということをかつて筆者に最初に示してくれたのは木村敏の著作だった。惚れ惚れするほど明晰でありながら、眩暈がするような直…

『ああ玉砕』 水木しげる (宙出版)

→紀伊國屋書店で購入 6編をおさめる戦記漫画短編集である。A5版と大きい上に貸本時代の作品や単行本化されていない作品が収録されており、宙出版の「水木しげる戦記選集」の中でも特にお買い得感の高い一冊である。 そのためか版元品切中で一部でプレミアが…

『ああ太平洋』上下 水木しげる (宙出版)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 水木しげるは1957年に他の作者が途中で放棄した作品を補筆する形で貸本漫画業界にはいり、翌年2月実質的なデビュー作である『ロケットマン』を、3月には『戦場の誓い』を発表する。オリジナル第二作にして戦記漫画…

『駆逐艦魂 完全復刻版』 水木しげる (小学館クリエイティブ)

→紀伊國屋書店で購入 小学館クリエイティブの「復刻漫画シリーズ」の一冊で、1961年に曙出版から出た貸本漫画を版型から装丁、広告にいたるまで忠実に復元している。 カバーはリバーシブルになっていて、表側にはバーコードと小学館クリエイティブの文字がは…

『話す写真』畠山直哉(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「文化度ゼロ」の地点にむかわせる写真の力 日本の写真家が、国外でも積極的に活動するようになったのは、90年代半ばくらいからだろうか。それ以前にも展示の機会はあったが、写真家自らが意識してそれをおこなうようになったのはそのこ…

『西欧中世の社会と教会-教会史から中世を読む-』リチャ-ド・ウィリアム・サザン著(八坂書房)

→紀伊國屋書店で購入 「教会の歴史からみる中世史」 ウェーバーは、組織をアンシュタルトとセクトに分類した。アンシュタルトは人々が生まれ落ちるように加入させられる組織であり、セクトは人々が自主的な意志をもって参加する組織である。アンシュタルトの…

『ノルマン騎士の地中海興亡史』山辺 規子(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 王(女王)を選ぶ際に諸侯たちは、外国人だから、異教徒だから、まだ幼いから、体がデカイだけで馬鹿だから、辞めさせ易いはずと甘く考える。しかし一旦王権を手にするや、したたかな才覚を現す者が歴史に名を残すのだ。 ノルマンのイメー…

『The Thousand Autumns of Jacob de Zoet 』 David Mitchell(Random House )

→紀伊國屋書店で購入 日本を舞台にした小説「The Thousand Autumns of Jacob De Zoet」。著者はイギリス出身の注目の作家デヴィッド・ミッチェル。ミッチェルは2007年のタイム誌で「世界で最も影響力のある小説家」の一人に選ばれ、イギリスの権威ある文…

『姑娘』 水木しげる (講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 表題作を含め5編をおさめる戦記漫画短編集である。表題作以外は貸本時代の作品で、印刷は悪いが貸本時代の荒々しいタッチを見ることができる。 「姑娘」 「リイドコミック」(リイド社)1973年4月増刊号に掲載。「あとがき」によれば中…

『戦後日本スタディーズ〈3〉 8 0・9 0 年代』岩崎稔、上野千鶴子、北田暁大、小森陽一、成田龍一編著(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「いま」を読み込み読みかえる手がかりとして――『戦後日本スタディーズ』年表あとがき 道場親信(和光大学准教授) 現在紀伊國屋書店から刊行中の『戦後日本スタティーズ』(以下、『スタディーズ』)全三巻に収録された「年表」の作成…

『白い旗』 水木しげる (講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 表題作を含め4編をおさめる戦記漫画短編集である。いずれも貸本時代の作品だが、「ブーゲンビル上空涙あり」以外は貸本版を複製してほとんどそのまま再録しているので現在とは違う荒々しいタッチを見ることができる。 「白い旗」 1964年…

『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』真柄慎一(フライの雑誌社)

→紀伊國屋書店で購入 「体だけは丈夫でな」と津々浦々でじいちゃんばあちゃんが言っている ミュージシャンをめざして上京して3年。実力を思い知り早々に最初の夢を断った「僕」。手持ち無沙汰に、ふと釣りをしてみたくなる。子どものころ毎日のように遊んで…

『観光』文庫化!!

皆様お久しぶりです。 「ワールド文学カップ」終了後、しばらく休んでいたピクウィック・クラブが本格的に再始動します。 そんなタイミングでビッグニュースが飛び込んで参りました。 五月の「ワールド文学カップ」ではたった一人での出場だったのにも関わら…

『敗走記』 水木しげる (講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 表題作を含め6編をおさめる戦記漫画短編集だが、どれも読みごたえがあり完成度が高い。貸本時代の作品とメジャーになってからの作品が混在しているが、貸本時代の作品は描き直されているのですべて細密画風の現在のタッチである。もし水…

『十七世紀のオランダ人が見た日本』クレインス フレデリック(臨川書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書の目的を、著者クレインスは、つぎのように述べている。「十七世紀オランダにおける日本観の形成過程を解明することである。日本観形成過程の解明に当たって、本書では特に日本情報の伝達経路に注目している。そのため、本書は時系…

『総員玉砕せよ!』 水木しげる (講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 水木しげるが戦記漫画を描いていて評価が高いことは知っていたが、陰々滅々な話だろうと敬遠していた。しかしNHKの連続ドラマ『ゲゲゲの女房』で水木が戦記物に注いだなみなみならぬ情熱を知り、思い切ってまとめて読んでみることにした…

『“道”と境界域―森と海の社会史』田中 きく代 阿河 雄二郎【編】(昭和堂)

→紀伊國屋書店で購入 「道の諸相」 「道」という概念と「境界」という概念をキーにして、さまざまな社会史的な考察を集めた「学際的な」論集。中には「越境」という概念を細い糸のようにして、どうにかつないでいる論考もある、それでもこうした企画はふだん…

『抵抗と協力のはざま-近代ビルマ史のなかのイギリスと日本』根本敬(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 1989年にビルマの軍事政権が、対外向けの英語の国名をBurmaからMyanmarに変更した。その後に生まれた学生のなかには、ビルマとミャンマーが同じ国であることを知らない者がいる。このワープロも、「ビルマ」と入力すると、毎回赤字で「…

『心の野球 ― 超効率的努力のススメ』桑田真澄(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「桑田があんなふうにしゃべる理由」 野球中継の桑田の解説はかなり独特だ。 現役時代のヒーローインタビューでの、あのぼそぼそしゃべる感じそのまま。くぐもった声は聞き取りにくく思わずテレビのボリュームをあげたくなる。実況のア…