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『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか?-アウトサイダーの時代』城繁幸(ちくま新書)

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか?-アウトサイダーの時代

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「「アウトサイダーの時代」の開幕を告げる、元気のでる新書」

 あの富士通の人事担当者として、成果主義の実態を暴露した「内側から見た富士通成果主義」の崩壊」の著者、城繁幸氏の新刊だ。これは読むべきだ。売れている。新書のベストセラーランキングで上位に食い込んでいる。この本が売れていることは、自分のことのようにうれしい。
 なぜなら、私もまたこの本で紹介されたアウトサイダーたちの生き方に共感するからだ。

 アウトサイダーが増えるほど、日本は面白くなる、エキサイティングな国になると信じているからだ。

 私もまたアウトサイダーのひとりであるという自負があるからだ。

 本書で書かれていることは、この日本のくそったれ会社から決別したいと願う全ての人々の夢だからだ。

 斬新な企画を上司に提案しても却下される。社内の人事は、結局、上司の人気投票できまっていく。高齢幹部たちは高給をとれるのに、中間管理職、新人、外注先は低賃金重労働に甘んじるしかない。30代の働きざかりなのに、年寄りがポストを独占しているために、昇進して部下をもち新規事業を立ち上げるチャンスはゼロといっていい。しかし、「自分にはこの会社を辞めて、独立する自信がない」。そうあきらめる人間が大勢いるうちは、現体制は安泰である。昇進と昇給、そして新規事業をまかされる可能性ゼロの正社員は、会社の鎖につながれた奴隷である。格差社会の報道のなか、もし会社を辞めたら自分もフリーターになってしまい、「希望は戦争」とか、会社や社会批判を2ちゃんねるに書き込む鬱屈した中年になるしかないのか・・・。

 そんな不安をもった人たちは、本書を読むとよい。

 元気がでるぞ!

 いわゆる一流企業が若手の有能な正社員を絶望させるような無意味な労働をあてがっていること。その会社の内情を知った、優秀な大学生や第二新卒たちが、日本の大企業を見限って外資に流出していく動き。インターネット社会になり、会社内部でどのような労働実態があるのかを容易にアクセスできるようになったため、情報に敏感な若者ほど大企業幻想がなくなっている。

 彼らの中から、大企業のキャリアを捨てて自分らしい会社にうつるもの、起業するものたちが現れている。

 

モータウン浜松市在住の人間として、膝をうったのはこの記述である。

 

「(労働人口減少に対し)高齢者とか女性とかITを活用して減少分を補えなんて、経営者から見ればバカな話」

「日本には200万人もフリーターがいますが、彼らを活用すればいぽてんて言うのは私に言わせれば滑稽千万」

と、某自動車メーカーのトップの放言を紹介したあとに、著者はこう述べている。

「要するに自分たち企業が変わるはいやだから、国の形を変えてしまえということらしい。少なくとも自分が『はじかれている側の人間』だと、感じた人はこの会社の車は金輪際買うべきではない」

 東海地方在住者で、こう発言することはかなりの勇気を要する。東京在住の城繁幸氏にはもっと暴れていただきたい。


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