『メディア文化とジェンダーの政治学-第三波フェミニズムの視点から』田中 東子(世界思想社)
「新たなジェンダー論からメディア文化をとらえた待望の一冊!」
本書は、十文字女子学園大学講師の田中東子氏によって書かれたアンソロジーである。評者は、本書を著者よりご恵投にあずかったが、無論、それだからと言ってここで取り上げるのではなく、ほぼ同世代に属するメディア文化研究者の待望の一冊として、本書を高く評したいと思う。
本書が描いているのは、主として今日の日本社会における(若年)女性たちが織りなすメディア文化の実態である。
コスプレやスポーツファンなど、いくつものユニークな対象が取り上げられつつ、そうしたふるまいを当事者の視点に内在しながら、的確に描き出していく記述は、ざっと一読するだけでも十分に楽しめるものである。
加えて評者は、本書を「二つの距離感」の絶妙なバランスの上に成立した著作として受け取った。それはすなわち、ジェンダー論であることを銘打ってはいるものの、かつてのようなラディカルなフェミニズムに全面的に与するものでもなく、またかといって、それに対する急進的な反発としての、いわゆるバックラッシュと呼ばれる動きに与するものでもないということである。
だから本書は、ものすごくわかりやすいという人がいる一方で、ものすごくわかりにくく複雑だと思う人もいることだろう。
評者のように、世代的な共感を強くするものにとっては、ものすごくわかりやすいのだが、上記した「二つの距離感」とそれらへの長々しいエクスキューズがわかりにくくて仕方ないという人もいることと思う。
だが、複雑化する今日の社会において、説得力のある文化研究とはこういうものなのだろうなとも思わずにいられない。社会が複雑化し、多様な文化が入り乱れる状況において、まずもって聞き入れられやすい言葉とは、当事者性をもったものである。
この点で本書は、女性文化を対象に女性によって書かれた当事者性を持った著作ということができるが、かといってそれが、それ以前の女性たちとはまた違った立場取りによって書かれた(または書かれなければならない)著作であることも明確に述べられている。
それこそが、先に述べた「二つの距離感」に関するエクスキューズにほかならないのだが、多少面倒ではあっても、こうした立場取りを明確に言語化することが、今後生き残っていくための方策なのだと思うし、本書はそれをなし得た著作だと思う。
同じような立場取りに基づいて、今日の女性たちの文化を多様な視点から面白く記述したものとして、以前に『女子の時代』という著作を評価したが、本書はそれに加えて、こうした立場取りを理論的に詳細に検討し、明確化している点において(特に本書1~3章の内容)、さらに高く評価できるものといえよう。
先行するフェミニズムやジェンダー論のラディカルさ、あるいはその達成を知的財産として継承しつつ、さらにそれを使いやすくカスタマイズして、自分たちの世代の文化の記述に当てはめていくアプローチ、いわば「抑圧される女性」という立場から、「文化的な一クラスターとしての女子」という立場への変容に基づいた文化研究として本書は評することができると思われるが、今度は、男性文化についてこのような研究をしてみたいと、評者は強く思わされた。
ぜひ、女性男性問わず、文化に関心のある多くの方にお読みいただきたい一冊である。