書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『古代から中世へ』ピーター・ブラウン(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「貧者の正義」 ピーター・ブラウンはダブリン出身の歴史家で、現在はプリンストン大学で歴史学を教えている人物だ。邦訳は定評のある『アウグスティヌス』と『古代末期』だが、ぼくは邦訳されていない『身体と社会』(一九八八年)が圧…

『Born on a Blue Day』Daniel Tammet(Free Press)

→紀伊國屋書店で購入 「水曜日はブルー、ヨーグルトは黄色」 「11」は親切で、「4」は恥ずかしがり屋で物静か、「333」は美しく、「289」は醜い。 何のことか訳が分からないと思っているでしょうが、これは数学や記憶の分野で特別な才能を示すダニ…

Falguières, Patricia, "Le maniérisme; Une avant-garde au XVIe siècle" (Gallimard, 2004)

→紀伊國屋書店で購入 マニエリスム最強の入門書 今年2007年は、1957年から数えて50年目。だから、A.ブルトン『魔術的芸術』刊行50周年とか、N.フライ『批評の解剖』50周年とか、あって悪くないが、そういうセンスある世の中とも思えないが、G・ルネ・ホッケ…

『ひきこもりの国』マイケル・ジーレンジガー著、河野純治訳(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 自分が取材を受けた本の書評は書きづらいものだ。まして、そのテーマが私自身の専門と重なっている場合は。 本書の原題「遮られた太陽 Shutting Out the Sun」は、天の岩戸に隠れた天照大神のエピソードを連想させるが、テーマはむしろ…

『世界の日本人ジョーク集』早坂隆(中公新書ラクレ)

→紀伊國屋書店で購入 たわいがないことに、考えるヒントがある。冗談、戯れ言、揶揄には、世の中の虚々実々が宿っている。そう考えて、日本人について、海外で語られている笑い話を集めてみたら、どうなるか。この本はその一例を示して見せた。いわゆるエス…

『高丘親王航海記』澁澤龍彦(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「物語という舟」 マルキ・ド・サドからコクトー、バタイユにいたるまで、多くのフランス文学を日本に紹介してきた澁澤龍彦にわたしが惹かれたのは随分と昔の話で、強烈な西洋臭を放つエロティックなオーラと、奇を衒(てら)うようなスタ…

『写真ノ中ノ空』 谷川俊太郎=詩、荒木経惟=写真 (アートン)

→紀伊國屋書店で購入 10日、東京八重洲の某所に国公立病院と主要な私立病院から神経内科医が集まっていた。 障害者自立支援法と医療制度改革とが病院経営に、ひいては難病患者の生活や意思決定にどのような影響を及ぼすのか、各地の情報を交換し今後の対策…

『ナショナリズム-その神話と論理』橋川文三(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「日本のナショナリズムの源流を探る」 この書評サイトの執筆を引き受けたとき、まずはじめに思い浮かんだのがこの本だ。 本書はかつて存在した紀伊國屋新書の一冊として、1968年に出版された。以降、版型を変えて復刻され、現在に至っ…

『The Secret of Lost Things』Sheridan Hay(Doubleday)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨークのストランドは好きですか」 1927年に創設された本屋ストランドは、僕のニューヨークのアパートから歩いて15分ほどの所にある。ストランドは日本にも好きな人がたくさんいる本屋だ。置いてあるのは古本と1年以内に…

『わたしの城下町-天守閣からみえる戦後の日本』木下直之(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 ●城をめぐる戦後日本の連想ゲーム 『わたしの城下町』とくれば自動的に、 ♪格子戸をくぐり抜け……という歌詞が浮かんでくるが、 本書は昭和歌謡を扱ったのでもなければ、わが城下町讃歌でもなく、 「天守閣からみえる戦後の日本」を考察…

『アルバムの家』女性建築技術者の会(三省堂)

→紀伊國屋書店で購入 「もやもやの家に目盛りを打つ『間取り図』物語」 中学1年生を末っ子に4人の子どもと暮らす夫婦が、マンションのリフォームにあたってワンルームを希望した。周囲は、本当に子どもたちはそれでいいのかしらと心配するも、当人たちはいた…

『メディア・リテラシー教育──学びと現代文化』デイヴィッド・バッキンガム、鈴木みどり監訳(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「「啓蒙」の引きうけ方」 メディアリテラシー。直訳すれば「メディアの読み書き能力」である。台湾では「媒体素養」というそうだ。こちらのほうが直感的にわかりやすいかもしれない。 このカタカナ言葉はここ数年、日本でもかなりひろ…

『詩と国家』菅野覚明(勁草書房)

→紀伊國屋書店で購入 「倫理学と「ひとめぼれ」」 ふだんはあまり足を踏み入れない近所の書店で、そうか、ここにも詩の棚があるのか、と眺めていたらたまたま書名が目についた、という本である。 こんなどうでもいいことを書くのは、実は『詩と国家』のテー…

『 グーグル・アマゾン化する社会』森 健(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「一極集中への警鐘」 Googleが/Amazonが/Web2.0が凄いという本が最近巷にあふれているが、 本書はこれらのサービスの凄さや面白さを宣伝する本ではなく、 ネットの進化によって発生する一極集中の問題について議論した本である。 ネッ…

『キリスト教と音楽』金澤正剛(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 ヨーロッパの音楽が発展する過程において、キリスト教の存在は欠かすことができない要素である。古くは教会における礼拝の音楽として使用され、こうした日常のミサで歌われるような讃美歌も、捨てがたい味わいを持っている。一方この教…

『何も起こりはしなかった』ハロルド・ピンター[著]喜志哲雄[編訳](集英社新書)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](25) 「知識人」という言葉にマイナスイメージが付与されるようになったのはいつからだろうか。口先だけで行動しない、言葉は華麗だが実質を伴わない――こういう非難は、多くの知識人たちが、本来もっているはずの行…

『殺された側の論理』藤井誠二(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「復讐への加担というジャーナリストの仕事」 ノンフィクションライター、藤井誠二の新刊である。 (藤井誠二のブログ→http://ameblo.jp/fujii-seiji/) 藤井誠二といえば、教育と少年事件をおもなフィールドにした書き手である。1984年…

『砂の女(改版)』安部公房(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ">「非現実から現実へ」 パリのシャイヨー宮にあった、一種の名画座とでも言えるシネマテックで、安部公房の「砂の女」を観たのは、15年以上も前の事だ。勅使河原宏監督のこの素晴らしい映画は、日本で一度観ていた。だが、一体パリでは…

『テレビのエコーグラフィー――デリダ〈哲学〉を語る』ジャック・デリダ+ベルナール・スティグレール(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 ●「技術論と憑在論 ――イメージ、アーカイヴ、テレテクノロジー」 ジャック・デリダとベルナール・スティグレールは、現代世界の諸問題(自由主義経済、文化資本主義、ナショナリズム、グローバリゼーションなど)を、映像メディアやテレ…

『偶然からの哲学』(未邦訳・未英訳)ベルナール・スティグレール<br><font size="2">Bernard Stiegler, 2004, <I> Philosopher par accident </I>, Galiée</font>

→紀伊國屋書店で購入 ●「<技術の問い>と<哲学の問い>」 ベルナール・スティグレールの哲学の投企は、主体と客体、人間と環境、存在と時間の関係を先立って定立する(前‐定立)、人工器官、補綴、代補、すなわち技術へと向けられる。スティグレールは、そ…

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル ブライソン(日本放送出版協会)

→紀伊國屋書店で購入 「科学の歴史を楽しく学ぼう」 広い範囲にわたる科学の現状や発見の歴史について楽しく学ぶのに絶好の本である。 技術を扱う仕事をしている理系の人間でも、 「原子の中身はどうなってるの?」 「宇宙の果てとかビッグバンとかってわかっ…

『舟と港のある風景-日本の漁村・あるくみるきく』森本孝(農山漁村文化協会)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 盆地育ちで、山が見えないと落ち着かないわたしには、海は別世界のものである。著者、森本孝と…

『変われる国・日本へ−−イノベート・ニッポン』坂村健(アスキー)

→紀伊國屋書店で購入 わが国の「イノベーション担当大臣」は誰か。即答できる人はどれくらいいるだろう(答えはこちら)。実は現在、内閣府を中心に二〇二五年までを視野に入れたイノベーション創造のための長期的戦略指針「イノベーション25」なるものが…

『再帰的近代化――近現代における政治、伝統、美的原理』ウルリッヒ ベック,アンソニー ギデンズ,スコット ラッシュ(而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 ●「再帰性理論をめぐる対話」 「近代とはいかなる時代か」という問いは、社会学徒ならば避けては通れない問題である。『再帰的近代化』は、ウルリッヒ=ベック、アンソニー=ギデンズ、スコット=ラッシュの三者が、この問いにたいして…

『愛人(ラマン)』Marguerite Duras(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 もう少しすると就職活動の季節である。もちろん2009年入社の人たちの話である。 私が修士課程にいたときも、1年次の年明け早々には就職活動が始まって、周囲の人に「早いねえ」と言われた覚えがあるが、スケジュールの早期化にはまった…