書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『ノアーレ 野荒れ』野坂昭如/言葉 荒木経惟/写真 黒田征太郎/画(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 未来や過去や現在のすべての14歳に贈りたい 庭に出した椅子に下駄履きで腰掛け、口を真一文字にしてサングラスの奥からこちらをキィと見つめる男。足もとには、蚊取り線香。左手に杖をつき、立ちあがる。足もとにはやはり、蚊取り線香。…

『燈火節』片山廣子(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「生のメカニズムを観察する眼」 片山廣子と聞いても知らない人がほとんどではないかと思う。私も本書の元になった『燈火節』が出る数年前までそのひとりだった。そのとき、大部な本をひもとき、こんな作家がいたのかと驚かされた。 今…

『画文共鳴-『みだれ髪』から『月に吠える』へ』木股知史(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 学と遊びが共鳴するこういう本をエロティックスと呼ぶ ギリシア神話の記憶の女神ムネモシュネの9人の娘がそれぞれ芸術の9分野を1つずつ担当したことから、例えば詩と絵はシスターアーツ [姉妹芸術] と呼ばれ、もとをただせばムネモシュ…

『現代思想』2月号~特集:医療崩壊-生命をめぐるエコノミー(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「QOLと緩和ケアの奪還」 20代後半の若手編集者、とても東大卒には見えない甘めのルックスだけど「できる」と評判の栗原さんから、この企画をいただいたのは昨年の暮れだったか。雑誌は集団の力を見せつける。『現代思想』2月号の特…

『トヨタの闇』渡邉正裕・林克明(ビジネス社)

→紀伊國屋書店で購入 「全日本国民必読の書である」 トヨタという自動車メーカーの「闇」にスポットをあてたノンフィクションである。 世界一の自動車メーカーに成長したトヨタ。 成功した会社として、その社風をたたえる書籍が無数に出版されるトヨタ。 そ…

『連帯と承認-グローバル化と個人化のなかの福祉国家』武川正吾(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「この国において「連帯と承認」はいかにして可能か?」 いかなる論理の飛躍も修辞によるごまかしもない、平明で硬質な文章を読むことは、まさにひとつの快楽である。 私はここのところいっそう、日本という社会の成り立ちの様々な面で…

『クラシックでわかる世界史』西原稔(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「時代を生きた作曲家 歴史を変えた名曲」 本書のタイトルは「クラシック音楽を利用して世界史を勉強しよう」と読めるが、そうではない。「世界史と対応させることによってクラシック音楽をより深く味わうための本」なのだ。音楽の歴史…

『絶望男』白井勝美(サンクチュアリ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「死ぬな。書き続けろ。」 年齢:46歳。 学歴:中卒。 職歴:一度も定職に就いていない。 ひきこもり歴:30年。途中、アルバイトなどの軽作業の経験はある。 病歴:20歳から精神科に通院。精神障害者2級。障害年金受給者。 資格:一切な…

『ウェブスター辞書と明治の知識人』早川勇(春風社)

→紀伊國屋書店で購入 明治行く箱舟、平成の腐海にこそ浮けよかし 本書は、アメリカン・ルネサンスを代表する作家ハーマン・メルヴィルの『白鯨』冒頭を一種の引用辞典にして、それによって「クジラ」を定義するなど、辞書と辞書メタファーに敏感なところを示…

『絵はがきのなかの彦根』細馬宏通 (サンライズ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「大人」による「風景探偵調書」 すでに絵はがきについての著書『絵はがきの時代』(2006青土社)があり、明治時代の塔の研究をまとめた『浅草十二階』(2001青土社)の資料として集めたのが絵はがき収集の始まりという著者の細馬宏通さ…

『私の部屋のポプリ』熊井明子(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「「ぴんくいろのびんばう」をめぐって」 「ぴんくいろのびんばふ」。熊井明子のエッセイでこのことばに出会ったとき、私はそれをすなおに受け入れることができなかった。 これはそもそも片山廣子の随筆『燈火節』にてでくることばで、…

『視覚のアメリカン・ルネサンス』武藤脩二、入子文子[編著](世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 いまさらながら巽孝之には「おぬし、できるな」である 入子文子氏氏の「覇気」に触れた機会に、氏も共編者となった『視覚のアメリカン・ルネサンス』という論叢を紹介したい。「アメリカン・ルネサンス」とは薄幸の巨人的批評家F.O.マ…